香りを映像化する。上質な色気を感じるシズル表現を求めて
スチルフォトグラファーとして、緻密なライティングを武器に「ブツ撮り」を中心に活動してきた菅野桂子。自身のスタイルとマッチする新しい動画表現を求め制作したムービー作品を、タッグを組んだディレクター大滝洋平と共に振り返ります。
Cam 菅野 : もともとしっかりとしたライティングを施した、いわゆる「ブツ撮り」が好きでフォトグラファーを志していました。自分が培ってきたブツ撮りの技術を動画に落とし込んだ時にどういった見せ方があるのか、その探究心が最初の動機でしたね。ストーリー性をもたせ、緩急のある作品にしたいと思い、Directorの大滝さんにご参加頂きました。
Dir 大滝 : 少し前に、別のプロジェクトで菅野さんとご一緒したのがきっかけです。ディレクターにとって「作品制作」って実はすごく勉強になるんです。普段の仕事ではあまりないスーパースローモーションの作品撮りと聞いて、面白そう!ぜひやりたいと参加しました。
菅野 : 最初に、私自身がどんな表現を撮影したいかを考えました。スチル作品のトーンを踏襲した「ブツ撮り」に加えて「シズル」表現は必ずチャレンジしたい、など大枠を決めてからテスト撮影を行いました。本番で使用するカメラを使用することで、スペックだけでは曖昧だったハイスピード表現を実際に見極めることができました。「商品」と「シズル」の両方を表現できる香水をモチーフに決定し、水・植物・果実など香料の原料を織り交ぜた構成を考えました。
大滝 : その後、商品に関するリサーチメモを送って頂きました。ご自身が使用されている香水だったので、感想も含めていろいろと興味深く・抽象的な表現があがってきましたね。

菅野 : メーカーからの、オフィシャルな説明から、実際のユーザーの口コミまでいろいろとリサーチをしました。その中で自分が共感できるワードを拾い、アイデアの軸になる要素を取捨選択していきました。それらを文章化し、そこから想像したシーンを大きな流れで考え具体的にコンテに落とし込んでいきました。抽象的な香りをビジュアルに落とし込む、具現化するためには必要なフローでしたね。


大滝 : プロジェクトの参加当初から、いわゆる液体バシャバシャの「シズル」表現ではなく、菅野さんらしい「光が印象的なしっとりとしたトーン」をエッセンスにしたいと思っていました。それから、菅野さんの得意とするもう一つの「重厚感があって凛とした世界観」が僕自身すごく好きなんですね。その二面性をぜひ取り入れたいなと。

大滝 : 頂いたコンテや資料を自分なりに咀嚼し、「上質な色気」を演出コンテのテーマとしました。どこかつかみどころがないけれど、なぜか人を惹きつけてやまない、そんな大人の女性の“女心”のようなイメージが表現できればいいなと。また、前出の異なる二つのトーンをストーリーの中でうまく成立させ緩急を出しながら、ハイスピードをより効果的に見せる動きや、表現のチューニングをし菅野さんのやりたいことをしっかりと踏襲していきました。ディレクターとして参加してはいますが、やはりカメラマンの作品になっているべきなので。


菅野 : カット数が多くセットチェンジも複数あったので、時間の許す限り理想の表現を追求しました。

菅野 : 特に水の落とし方は、いろいろと試行錯誤を重ねましたね。煙のカットでは、どうやって煙を対流させるか苦労しました。大滝さんのアイデアで、回転台の四隅に小さな旗を立てたんですよね。そうしたらうまく煙が流れて、感動しました!
大滝 : そうでしたね。もともと理系なので、こういうことは結構得意で。他にもグラスが割れたり、いろいろありましたけど撮影自体はとてもスムースでしたよね。


300fpsで撮影、ポスプロで600fpsまでフレーム補間
菅野 : Blackmagic URSA Mini Pro 4.6K G2を使用し、カットごとにフレームレートを変えて撮影しています。最大300fpsで収録可能なのですが、DaVinci Resolveのフレーム補間機能を使用することで600fpsまでのスロー表現に挑戦しました。
大滝 : 実際に撮影してみると、この手法にマッチする表現とそうではない表現がありましたね。液体など動きの早いカットやCUカットはオリジナルのフレームにしっかりとピンがきていないため、補間を施すとブレブレになってしまいました。反対に冒頭の布のカットは、この方法で600fpsまで増やしています。ハイスピード撮影って、機材費がどうしてもかかってしまうんですが、内容次第ではこういったやりかたもできるなと。

菅野 : それから、ハイの階調をゆるやかに表現するため、光量・感度を上げて撮影しました。タッチパネルモニターは操作性が非常に優れていて使いやすかったですね。

大滝 : 僕はそこまで機材に詳しいわけではないですが、色乗りがとてもよかったのが印象的でした。また、予算的に一眼カメラで撮影していたようなプロジェクトでも、このカメラであれば演出の幅がぐっと広がると思いました。




菅野 : ストーリーへの落とし込みや、編集を見据えた撮影プランなど、やっぱり自分一人ではここまで組み立てることはできなかったと思います。今の時代、ディレクションもできるようにならないといけないのかもしれないですが。
大滝 : 個人的な意見ですけど、カメラマンはイメージする力をしっかりもっていてくれればいいのではないかと思っています。「なんでもできる = なんにもできない」という表裏一体の可能性もありますよね。具現化することを軽視してはいけないと、最近強く感じています。僕自身、予算が潤沢ではない場合は、自分でグレーディングを行うことも多いんです。でも、僕は色々な人たちの具現化する力を混ぜ合わせたモノづくりが好きなんですよね。
菅野 : イメージする力、大事ですよね。その軸だけはブレないようにしていきたいです。嬉しいことに、この作品がきっかけでTVCMのお仕事が決定しました。自分の表現が認められ、それを生かす貴重な実績に繋がりました。まだまだスタートしたばかりですが、奥深い動画の沼にすっかりはまっております!またご一緒させてください。
大滝 : それはよかった!菅野さんからはしっかりしたイメージがいつも貰えるので、とても頼もしいです。ぜひまた宜しくお願いします。
Francis Kurkdjian
Blackmagic URSA Mini Pro 4.6K G2
SPECIAL THANKS TO
Cinematographer : Keiko Kanno / Colorist : Mio Kawano / Techinical Supervisor : Hisayuki Yamamoto / Director : Yohei Otaki
Blackmagic URSA Mini Pro 4.6K G2
SPECIAL THANKS TO
Cinematographer : Keiko Kanno / Colorist : Mio Kawano / Techinical Supervisor : Hisayuki Yamamoto / Director : Yohei Otaki

目に見えない、言葉にできない、触れることができない。けれど確かにそこにある本質。
その輪郭を描き出し、物語を紡いでいく。ことば、ビジュアル、声、音。あらゆる表現手法を使って、人の感情を揺さぶる。
1986年生まれ。神奈川県秦野市育ち。 東京農業大学で造林学を学び、造園施工会社へ就職。 外構造園施工の現場監督の仕事を経験後、 専門学校に通いながら独学で映像制作を始める。 6年間、映像プロダクションで勤務後、 2017年10月アマナデジタルイメージング入社。 ブランディング、イベント、広告、ミュージックビデオなど、 幅広いジャンルの企画・演出を手がけ、 映像を起点に、コミュニケーションの可能性を拡げている。