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ブックマーク『3』

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レンズを通した、ジャーナリズム。フォトグラファー志村賢一が、3つの写真集をご紹介。


フォトジャーナリズムに興味を持ち始めたのは、世界史の授業でカメラマン沢田教一の「安全への逃避」を見たのがきっかけ。写真を撮ることを通して、世界をもっと深く理解し歴史の目撃者になり得るんだと、長く続けていた野球を引退してから初めて何かに没頭した。

そのころから少しずつ収集している写真集です。



① INFERNO  by James Nachtwey http://www.jamesnachtwey.com/

20世紀に起きた、全ての悲劇の現場に立ち会っているような写真家の代表作。
War photograherという映画が有名なドキュメンタリー写真家。淡々と記録された写真には感情のようなものは一切感じられない。悲劇の現場で完全に気配を消し、外科医のように冷静に正確に、光と構図が完璧なその事象の1枚をインパクトフルに切り撮る。

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② WORKERS by Sebastião Salgado

前出のジェームズ・ナクトウェイが一切の感情を排除した「陰」の写真だとすると、セバスチャン・サルガドは絶対的な「陽」の写真を撮る。被写体がカメラマンの存在を認識し、その関係性が写り込んでいる。

「WORKERS」は1980年代にサルガドが、​農夫、鉱夫、工場労働者など肉体労働者を世界各地で撮影した写真集。産業化の真っ只中、急激に発展する世界の様相から、徐々に失われつつあった純粋な肉体労働で生きる者たちを記録する最後のチャンスだと思ったという。
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学生時代、特別講師だったセバスチャン・サルガドから教えを受けていた。
当時出された課題は、半年間・世界10ヵ国を旅しながら写真を撮るというものだった。その旅にこの写真集を持参した。サルガドは被写体を撮影するまでに、長い時では3ヶ月ほど共に時間を過ごし、少しずつ距離を縮めていくという。半年の旅の間、教科書のように毎日この写真集を開いた。被写体とカメラマンの関係性こそが写しだされるのだと、光と構図以外に感情でシャッターを切ることを学んだ。
国際コーヒー機構の元職員で、世界銀行とFAOのコンサルタントだったという特異な経歴を持つサルガト。ヴィム・ヴェンダースが制作した、「the salt of earth」というドキュメンタリー映画で彼の軌跡を観ることができる。

 



③ SATELLITES by Jonas Bendiksen https://www.jonasbendiksen.com/

ノルウェー出身。若干29歳で発表したこの写真集で世界的に評価される。旧ソビエト連邦内の辺境で暮らす人々の生活を取材したこの一冊は、構図の切り撮り方が逸脱している。起きている事象にしっかりカメラが存在し宇宙船切り離しの残骸がある場所で撮られた表紙写真を始め、一枚一枚が動的でドラマチック。写真家のパーソナルな視点で切り撮られた印象を与える写真集。
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90年代の初頭に起こった湾岸戦争で、CNNは空襲の様子をライブ中継した。おそらく、そのころからフォトジャーナリズムそのものの役割や意義が変わっていった。この一冊は、フォトジャーナリズムの表現方法がよりパーソナルな視点でのアプローチへと変わったとのだ、と実感した印象的な一冊。


 

ブックマーク +

3つのもの・ことを紹介するこの連載企画ですが、今回はPh 志村の熱量を余すことなくお伝えすべくさらにもう2冊の写真集をご紹介します。



④ Discordia by Moises Saman  https://www.magnumphotos.com/newsroom/moises-saman-discordia/

中東で2011年から、大規模反政府デモ「アラブの春」が起きていた4年もの期間を費やし自身のパーソナルな「記憶」を撮影・収録した、回顧録的ドキュメンタリー作品集。ニュースで幾度となく目にしたセンセーショナルなデモと衝突のシーンとは全く別の、そこに生活がある者の当事者感や臨場感が写し出されている。コラージュなどを用いた表現は、ある種シュルレアリスムのようにも感じられる。
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⑤  一山 ISSAN by 古賀絵里子 http://www.kogaeriko.com/

5年にわたり、聖地・高野山で撮影された「目に見えないモノを写そうとした」写真集。僕の持論ですが、動画って目に見えないものは映せない。でもここに掲載されている写真は、そういった「見えないモノ」の存在を想像させるような切り撮り方をしていて、不思議な気持ちに包まれる一冊。
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ブックマーク、いかがでしょうか?


 



文/*写真 : 志村賢一
*本人私物を撮影

志村 賢一Kenichi Shimura

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