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THE SERIES 「 dear grandma 」

:

クリエイター独自の視点で切り撮られるビジュアル”シリーズ” vol.04 Ph AKANE

気鋭の若手フォトグラファーAKANEが、亡き祖母へと描く手紙。
シリーズ第一弾の制作の裏側に迫る。


AKANE
「ちょうど私が入院していた時に、祖母も緊急入院 
一度は意識は戻り帰宅するもの、再入院
コロナが始まって以来一言も交わさず逝ってしまった
伝えきれなかった思いを写真という形で手紙を送ろうと思う」
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〜dear grandma〜
 
そろそろ秋がやってきます。
去年ほど寒くはありませんが、温かい鍋料理が恋しい時期になりました。秋に訪問したときに見る、オレンジから黄色のグラデーションに染まる景色がいつも心をほっとさせます。鍋といえば、必ずや坂道の下にある精肉店でお肉を買い、家族と一緒にグツグツと煮える鍋を囲みましたね。手を繋いで道路を渡るたびに、強く握りすぎ!って思ってました。
あなたが大のお肉好きだったことは、今でも話題になります。でも孫は全員知ってますよ・・・あなたが、成長のためだからと根拠のない理由で、嫌いな野菜を孫に押し付け、しれっと自分の皿に肉を多めに入れてたことを・・・そしてデザートのケーキをシェアしようねと約束したのに、一瞬で全て平らげていたのを。食の恨みは執念深いですが、あなただから、許します。
今どこにいるか知りませんが、過酷な人生を生きてきたあなたには、まだまだお肉三昧の日々を過ごしていてほしいです。お腹がはち切れるまで食べていて欲しいです。

そして、秋はあなたがこの世を去った日です。
もうこの季節は好きにはなれないかも。



 

about her grandma

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• お肉大好き、野菜嫌い(漬物はOK) • 足腰弱くなってたけど、胃はすこぶる丈夫 • 甘いものに目が無い;かりんとうとプルーンが一番好き  • 医者と病院が嫌い • 頑固・自分の主張と意志が強い • 物欲なし • 料理上手・漬物上手(お椀で計量してた) • 手先が器用;浴衣、着物、布団全ての裁縫をしてた • 紫~藤色が好きっぽかった(同じ色よくヘビロテしてた) • 口癖は「ごしたい」(茅野の方言で疲れたという意味)• 日蓮宗

 

お肉が大好きで、野菜が大嫌いで日蓮宗だった祖母へ

大好きだった祖母のことを一つ一つ記憶を頼りに書き出し、その中でも特に思い入れのある二つの言葉を選んだ。「鍋を囲むと、嫌いな野菜を孫たちに押し付けるほど好きだったお肉」、「日蓮宗」だった祖母。連想するように思い浮かぶイメージを、どんどん書き留めていくうちにいくつかが形と意味を伴っていく。
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今回は、真っ青な水を湛えた池に咲く肉の花。池はテーブルの上のコーディネートとして、葉のイメージを皿に例えるなど、きっと今もどこかで祖母がお腹いっぱいに誰かと好きなものを食べているかのような風景にした。

蓮について;
「おばあちゃんがよく仏壇の前で唱えていた南無妙法蓮華経。宗教に馴染みがない私が日蓮宗を深掘りしていくと、植物の蓮にたどり着いた。蓮の花は法華経を理解するためのメタファーとして使われているようだが、私がインスピレーションを受けたのは蓮の生き様について。蓮はベチョベチョした灰色の泥沼から生えるが、育つ環境とは裏腹に美しく清らかなピンクの花を咲かせる。
大正から昭和へ移り変わった年に生まれた祖母は、田舎の小さな村で農家で育った。大家族だったらしい。たくさんの妹や弟の世話をよくみていたと大叔母からよく聞く。二十歳を迎える頃には第二次世界大戦に巻き込まれ、戦後落ち着いた頃に結婚した夫は心理的後遺症とパーキンソン病を患う。代わりに自分が工場へ出稼ぎ、蒸し暑い夏や凍える冬を何キロも歩いて家族を養った。
実際のところは本人に聞いたこともないので分からないけど。ともかくいろんな面で苦労を強いられたのは確かだったと思う。それども、握ってくれた手はしわくちゃで泥だらけなのにいつも温かく、畳の上で腹を出して寝ていれば、歩くのが辛いだろうにタオルケットをかけてくれる。決して大好きとか口には出さないけど、家族愛で溢れている人だった。

蓮が成長し泥に染まらず花を咲かせる様子が、おばあちゃんの生き様に重なる。
彼女の人生をなぞるハスの花。花言葉は清らかな心。
生きていたら彼女に渡したかった花。」


ケーブルについて;
「この世こそが仏の世界」を唱える日蓮宗の法華経。だったら、私とおばあちゃんは仏を通じてまだかろうじて繋がってるんじゃないか。私が勝手に忘れないように、手紙を書く。どこへ差し込めばいいか分からないけど、ケーブルも差しておく。ずっと繋がっていたいから。」


手元にある情報や言葉を、一つ一つ精査しながら自分の世界観に組み上げていくのはデザインやアートを学んだフォトグラファーAKANEの最も強みとなっている根幹の部分。コミュニケーションプランニング業務にも携わる中で、独自の思考や視点を通じてビジュアル開発を行ってきた。

 

about AKANE

長野県生まれ、転勤族育ち。小学校から高校までの間、香港と深セン・中国で過ごす。 

大学入学を機に渡米、Columbus College of Art & Design にてアートと写真を学ぶ。
自身のサードカルチャーキッドとしての経験を生かし、ありとあらゆる物 をリミックスした、エキセントリックで夢心地な世界を得意とする。常識に捉われない事を軸に白紙から絵を作り上げている。頭の中はいつもワクワクドキドキするアイデアでいっぱい。

好きな食べ物はハンバーガーとフライドポテト。
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趣向性の高いプロップだけでなく、コンセプトやビジュアルの成り立ちまで自身で考え生み出すことのできるフォトグラファーとしてコマーシャルフォトを中心に活躍の場を広げている。

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パーソナルな感情から生まれたアイデアと、画作り

今回は​フードスタイリスト勝又友起子と、これまでも数多く作品制作を共にしてきたレタッチャー叢智子の協力を経て、ラフに描いた世界やその背景を事前に伝えた上で撮影に挑んだ。
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写真左、勝又友起子さん

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写真奥、叢智子さん

フードスタイリスト / プロップスタイリスト 勝又友起子
「仕事は楽しく」をモットーに、広告を中心に活動中。無類の猫好きで猫のイラストが署名代わり。将来はぜんざい・かき氷のお店を開くのが夢。

レタッチャー 叢智子
フォトグラファーのアシスタントとして、株式会社hueに入社。「食」を主軸としたシズル表現を学んだ後に、レタッチャーへ転向。より趣向性が高いリベラルな表現を求め、グリッジアートに見られるようなテクスチャーやノイズ、色彩感覚を存分に発揮している。


AKANE「今回ご協力頂けた勝又さんと叢さんにはとても感謝しています。いいように言えば、おばあちゃん思いの孫の話、悪いように言えば私の気持ちを整理にするためだけの作品。なのに、素敵なアイディア!ぜひ参加させて!と二言返事で話に乗ってくれました。本当にありがとうございます。

 打ち合わせでは、できる限りおばあちゃんについてお二人にお話をしつつ、蓮の花をお肉でどう作るのか仕掛けを隠密に練っていきました。なるべく悲しみに満ちたくないこと、死後も楽しんでることを第一優先と伝えましたが、そのほかはそれぞれの感性やアイディアを入れ込んでいきたかったので、余白が残るようなスケッチにしています。私にとっての作品撮りの醍醐味は、クリエイター同士のセッションなので。」

 

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フードスタイリスト勝又友起子が現場でサラミやタピオカを用いて見事な蓮の花を咲かせてくれた。

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テーブルセットはAKANE自らもプロップを用意し、フードスタイリスト勝又と話し会いながら詳細を詰める。

AKANE「勝又さんが緑のワイヤーで茎を作ってくれたり、葉っぱそっくりの形をしたお皿をかき集めてくれたり。私がなんとなーく持ってきたプロップを、叢さんが入れてみよう!と言い、まるで広告を作る時みたいな真剣な雰囲気に、他人の、しかも会ったことのない故人にここまで向きあってくれる・・・なんて寛大な人たちなんだ、と1人で勝手にジーンと感動してしました。」

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AKANE「最終的には彼岸と此岸というテーマも取り入れてよりファンタジーに寄せたり、トーンの調整も叢さんと二人三脚で行っていきました。」

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勝又友起子
「まず初めに、あかねちゃんから声をかけていただけたことがとても嬉しかったです。
あかねちゃんの作品はカラフルで、色の組み合わせが、、うまく言えないのですが、あかねちゃんの世界観が好きです。光のキラキラしたところとか。P O Pで自由な感じ、ちょっとした違和感や鋭さ、ダークなものもあるけれど見終わって最後に残る私の感情がポジティブである。という感覚になるところも好きです。
打ち合わせの時に作品のコンセプトを伺って、その想いと深さに愛を感じ、心が動かされました。企画もとても面白くて、あかねちゃんの期待を超えたいと思ったのが最初の気持ちです。参加させていただいてとても楽しかったです。当日はセッションみたいな感じで、みんなの感覚を交差させながら進んでいく感じがとても心地よかったです。」



叢智子
「とてもパーソナルな話題と心情を、みんなで愛をもって解釈して、キャッチーな画に落とし込めたと思います。彼岸と此岸をキーワードに異界の雰囲気を醸すよう色を出して調整していきました。おばあちゃんへのさまざまな思いを作品に昇華させることで、ちょっとでも気持ちの整理と、供養につながれば幸いです。」

 

さよならは、まだ言わない。

AKANE「おばあちゃんが亡くなってから、自分の一部も死んだような気持ちでした。中々ショックから立ち直れない中、親友から「そんなに辛いならいっそ吐き出してしまいなよ」と言われたのをきっかけに作り始めたのがこのシリーズです。」

 
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「昔の人というと語弊がありますが、私のおばあちゃんは、スマホのカメラでさえ写真を撮らせてくれなかった。データ上に存在しない彼女なんて、混沌した情報社会の中ではすぐにでも忘れてしまいそうで。ずっと繋がりたいという思いがどんどん芽生え、言葉足らずだった彼女へ伝え忘れたこと、報告したかったこと、年少期の思い出全てを写真という形で彼女へ送ろうと思いました。

撮影の途中で勝又さんが言ってくれた、「おばあちゃんきっと喜んでくれてるよ」。

届いているといいな。」

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亡き祖母へ捧ぐ手紙。書き溜めたラフを元に、シリーズは今後も進化していく。

Photographer

AKANEAKANE

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