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THE NEXT VISUAL EXPLORATION 後編

:

テクノロジー X クリエイティビティの融合から生み出される、新しい表現の追求


フォトレタッチ、プロダクトCG、VFXなどあらゆるCGソリューションを手がけるamana Visual department。3D衣服や、360スキャニングスタジオで撮影される*フォトグラメトリの技術を用いた、バーチャルヒューマンなど柔らかな物性のCG化も手がけてきた。*フォトグラメトリ : 物体をさまざまなアングルから撮影、それらをを解析、統合して立体的な3DCGモデルを生成する技術。

これらの技術を用い、フォトグラファー広光がそれぞれの分野のスペシャリストと共にバーチャルファッション & バーチャルヒューマンのビジュアライズを試みた本プロジェクト。



前編では企画から3D衣服制作の裏側をリポートした。後編ではビジネスモデルの進化も目覚ましい「バーチャルヒューマン」制作の裏側をご紹介します。


 
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:PHASE 3 –「VIRTUAL HUMAN」


    「バーチャルヒューマン」制作、何から始める?

ひとりの人間を、イチから創り出す。骨格や筋肉、顔の細かいパーツまで360° 全てを理想のかたちにデザインすることは、想像以上のチャレンジとなった。クリエイティブディレクションを担当した広光に、その進め方を聞いた。



HIROMITSU 広光
1989年富山県生まれ。愛知県立芸術大学卒業。現在、UN.incに所属。
NONIO ART WAVE AWARD 2019 石井孝之 選 審査員特別賞
第21回、第13回グラフィック『1_WALL』入選など

 

広光 : まず今回の企画のキャラクターイメージに近しい人物を、実在する人の中からリサーチし「目指すべき基準」としました。アジア圏出身だけど国籍を感じさせないような。そんな多様性のあるキャラクターにしたかった。膨大な量のリファレンス写真を参考に「顔」作りに取り掛かりました。



    「顔」をイチからつくる

広光 : 集めたリファレンスを基に、目鼻口の位置や形の整合性を整え顔を作っていきました。違和感を感じるたびに修正し「理想的で正しい顔」を目指したのですが...想像以上に難しかったですね。普段は考えませんが、例えば眉毛がどのような毛流で生えているかも皮膚の下の「骨」と関係していて、形だけを整えても全然ダメで。違和感を消していく修正が、逆に「顔の個性」を無くしていくような作業な気もして、終わりがなかったです。


     具体的には、どのような方法で制作したのでしょう

豊嶌(CGI Dir) : 顔に関しては、*スカルプトして制作を行いました。粘土を扱うのと同じく直感で造形できるソフトを用いて、ほほの筋肉や、涙袋など細部にわたってこの手法で制作していきました。*スカルプト : 彫刻する感覚で、直感的に3DCGモデルの形状を制作する方法​
 
 

豊嶌 礼緒生
1992年埼玉県生まれ。
東海大学 教養学部 芸術学科 デザイン学課程 グラフィック専攻
レタッチャーとして活動後、amana / incubation secに所属
スポーツ、ファッションブランドのカタログ・販促動画など3Dアパレルを中心に手がける


 
作業をしてはチェック、修正を反映するという工程を繰り返していきました。顔のRig(骨)を正しく組み込むシステムをつくれるスタッフが在籍しておらず、自分たちで骨格や筋肉、それぞれがどう影響し「表層」に現れるかを調べながらつくりあげていくことに。なので、限界はありましたね...。ここがしっかりできると、最終的に動画でアニメーションをつけても表情筋を動かすことができるので、チームとしての今後の課題だと思いました。
 
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初期に方向性チェックを行った顔の造形


 

: PHASE 4 - 「DIGITAL HAIR + MAKE-UP」


    「バーチャルヒューマン」ヘア&メイクのブリーフ

広光:
キャラクターを成立させるため、その「キャラクター」を象徴し命を吹き込むようなヘアメイクが必須でした。そこで、以前から素晴らしいクリエイティブを拝見し、イチからイメージを生み出して頂けると思っていたヘア&メイクアップアーティストの奥平正芳さんへデザインをお願いさせて頂きました。


    プロジェクトの依頼を受けて

奥平 :「現代の天女、現代の戦士」というキーワードと、強く印象的な衣装のイメージをいただいてからヘアメイクデザインを決めたので、強くて存在感のあるヘアメイクに仕上げました。モデルイメージもアジア人のイメージだったので少しだけ和のテイストも感じるようにしています。



奥平 正芳

 ヘア&メイクアップアーティスト。ヘッドピースやウィッグなどの制作も行い、

CM、広告、音楽、雑誌などジャンルを問わず活動中。

HP http://masayoshiokudaira.com/ 

 IG@masayoshiokudaira @masayoshiokudairahead
 

 


また今後のバーチャルヒューマンとしての活動も視野にという事でしたので、そこも大事なポイントだと思いました。モデルの顔自体は、そこまでの特徴がなかったので、何か決まった部分を作って認知しやすくしようと。そういった意味でも、金髪ロングヘア・前髪・アイライン強め・眉も金髪・リップ濃いめのプランを提案をさせて頂きました。

メイクはモードな方向性でありながら、ポイントである金髪眉、アイライン、リップはしっかりと見せていこうと考え、ヘアに関しては金髪でデコラティブな編み込みと前髪で印象的に。モードからカジュアルまで幅広く着こなせて、でもキャラがある。そんな感じの子が、今回のビジュアルの中で着飾ったとしたらどうなるか?と想像してデザインしています。


    どんな方法で3D化したのでしょう

奥平 : 実際のモデルさんにヘアメイクしたものをスキャンし、3D上に取り込んでバーチャルヒューマンに施術していきました。僕らヘアメイクはモデルさんにヘアメイクして普段は終わりですが、その後が本番というか、普段の仕事と全然違う感じでした。自分の手だけで完結するものを、他の方に伝え“自分ではない手”で表現されていく感じが新鮮でしたね。

 

 

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豊嶌 ヘアメイクが完成した後、100台近いDSLRカメラによって360°スキャン撮影をしフォトグラメトリの技術で立体形状「頭部モデル」と表面の「テクスチャ」をデータ化していきました。
 

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スキャンした頭部データのポリゴンを整えた後、もともと制作していた顔パーツと合わせ、できあがったCGモデルにメイクのテクスチャを乗せていきました。実際のメイクと同じく、ニュアンスで顔の印象が大きく変わるので、テクスチャが崩れないよう繰り返し微調整を行っていきました。





    「デジタルメイクアップ」立会いとは?

豊嶌 : こういった工程を何度も繰り返し、最終的には奥平さんに「デジタルメイクアップ」の立会いをお願いしました。リアルタイムでフィニッシュのイメージを共有・修正していくのが目的で、レタッチの立会いのように2D上で簡易的に修正し、立会い後にその内容を3Dに戻って調整しました。



広光 : リップの厚み、アイメイクの光沢感、眉間の幅など、細かい造形を一緒に確認して作り上げられたのがよかったです。少しだけアジアン、でもウエスタンすぎないギリギリのところを表現できより質の高いものになったと思います。
 

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最終レンダリング




     バーチャル空間でのヘア&メイクアップとその可能性

奥平無限の可能性があると思います。ヘアメイクに関しては特に、実際にはできない事で面白い表現がまだまだ沢山あると思います。でもそんなことがデジタル上では簡単にできてしまうと思うので。

あとこれが広告、ファッションの世界で増えていくとヘアメイクという仕事のやり方、内容もガラッと変わるんだろうなと思いました。手作業の職人的な仕事から、デザイナー的な仕事に変わっていく気がしました。面白いですが、怖いなと...。ただ、やはりまだ難しい部分もあると思うので、それらが改善されていけばヘアメイクデザイナーみたいな新しい職業も生まれていくんではないかと思います。
 
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: PHASE 5 - 「VIRTUAL HUMAN BODY / RIGGING + POSING 」


     バーチャルヒューマンの「ボディ」制作、その方法とは

広光 : イメージに近いモデルのボディサイズを「たたき台」として作っていきました。具体的には、骨盤の前傾具合・足の付け根の形状・肩のつき方や反り方だったりを、ニュアンスと数値で伝えながら理想の見え方に近づけていきました。ボディが完成してから衣服を着せ、アングルやポーズの検証を始めました。
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      ボディが完成。どのようにビジュアルへ落とし込んでいったのでしょう

広光 : 僕自身、フォトグラファーとして簡単なラフは描けても精細な絵は描けない。写真を切り貼りしたカンプでは、不十分だということに気づきましたね。ここから新たな「画」をつくり始めていくことになりました。

空間がないと、アングルとポージングを探ることができない。でもそのCG空間のロケーションをつくって、必要な広さを決定するには、カメラを覗いてみないとわからない笑。普段の撮影仕事では感じないジレンマでしたね。*プレヴィズした仮想空間をVRでアングルハントができる環境もないですから、難しかったですね。検証を重ねていく中で、東京の夜明けに、何かが近づき舞い降りるその瞬間の疾走感を表現するのであれば、“顔を見せない”構成しかあり得ないと行き着きました。*プレヴィズ : pre-visualization の略。本制作前に、完成ヴィジュアルを簡易的にシミュレーションすること。
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背景、人物、アングル、構成検証

大まかなアングルやポーズは決まった。でも、ここから「人体」を動かして理想のポージング、見え方に導いていく難しさは本当に想像以上でした。

 


     ボディを動かし、ポーズをつける難しさ...

豊嶌 : 実際の人間の動きを再現するために、通常、3D上でも「ボディ」に骨(リグ)を入れ、動きをつけていきます。アニメーターが手付でCGモデルを動かして演技をさせたり、モーションキャプチャーで実際の人間の関節の動きをデータ化し、そのアニメーションを3D上で再現するのが一般的です。今回は、KV用のポージングをつくるだけだったため、モーションキャプチャーは行わず自分たちで各パーツを動かすことにしました。

広光 : アングルとポージングを詰めていく工程が全行程の中でも一番苦戦しました。少しのアングル違いを検証しようとしても、とにかくレンダリングの時間がかかる。通常のフォトシュートであれば、相手とのコミュニケーションを手掛かりに切り撮っていく。でも、動かない被写体の場合、指先までの全ての要素をこちらが能動的に動かしていかなければならない。そしてその動きが、自然な見え方でなければならない…。
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ポーズ・アングル検証

 
例えば「片手を上に掲げる」というポーズも、単純に肩から上のパーツを動かせばいいのではなく、肩関節の回転具合、肘から先の曲がり具合、腰や背骨の反り具合、もっと言うと逆側の腕、首や顎の角度など…動きとして自然に見えることを「手動」でつくりあげるのは非常に難易度が高かったです。最終的には、美術用のポージング人形を用いて「仮ポーズ」をつくってみてから、iPhoneで写真を撮影し、CG空間に簡易的に合成、その後3D上でそれを再現するという方法で進めざるを得なかったので…  モーションキャプチャーやアニメーションの専門スタッフの重要性を感じました。


 


 

final output


   「テクノロジー X クリエイティビティの融合から生み出される、新しい表現の追求」を掲げ、1年近い期間を経て制作された本プロジェクト。取り組みを通してを、それぞれのDirに聞いた。


豊嶌 : 3DCGでは、レンダリングにどうしても時間がかかります。今回は、簡易的なデータでのチェックバックも難しくなっていったのもあり、制作フローに課題は感じました。自分でここまで全てを担当したのは初めてだったので、非常に学ぶことが多かったですし、CGにおける人物制作は知れば知るほど沼なので、改めて興味深い世界だと感じました。
あとやはりCGの大きな利点として、モデルや衣装、シチュエーションなど目的に合わせ自由に変えることが出来ることだと思うので、もっとたくさんの人に知ってもらえたらいいですね。

広光:プロジェクトを通して、本当にずっと楽しく取り組ませてもらいました。企画から一年かかりました。手探りながらも3DCGの制作フローを一から全て経験できたことは、強みだなと思います。 
今回は背景にいくつかの*HDRIを使用し、光と空間のバリエーションを作成してみました。これらのアウトプットにはとても可能性を感じます。
*​HDRI : High Dynamic Range Imagesの略。HDRIの輝度情報をCGの光源として使用することで、よりリアリティーの高い陰影表現や違和感のない明暗表現が可能。
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広光:モーションキャプチャーで自由に演じることができ、HDRIやプレヴィズでバーチャルカメラを使いアングルを切ることができるような技術がより汎用的になれば、次のステージに進むと思います。そう遠くない5年後ぐらいの未来のことだと思います。面白いですね。

 



3DCGにおける専門分野のリソース確保、制作の最適なフローなど課題はまだまだ多いが、テクノロジーの進化によって、ますます垣根が無くなっていくクリエイターの役割とその可能性を改めて考えさせらる取り組みとなった。

今回のプロジェクトの全行程を改めて。


 
企画立案

バーチャルヒューマン像の設定

衣装デザイン

ヘアメイクデザイン

360スキャン

バーチャルヒューマンボディ+顔作成

リグ設定・ポージング検証

デジタルメイクアップ立会い

アウトプット書き出し

ポストプロダクション

 

 
制作された成果をvisual bookとしてまとめした。
ぜひご覧ください。
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Creative Direction : HIROMITSU
CGI : Reoki Toyoshima
Wardrobe Design / Patterns : Ryusei Tachibana
Hair + Make-up Design : Masayoshi Okudaira
Digital Sewing : Motohito Shimo / KyokoTakeuchi
Special thanks : croobi / Ayaka Suzuki / Jin Hase




 

広光HIROMITSU

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