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ビジュアライズで導く2020年代の未来。

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dentsu 榊良祐氏 x Hydroid 谷合孝志氏 対談

世界有数のテクノロジーカンファレンスSXSWで、「食データの転送」という未来を描いてみせた電通の榊 良祐氏。そのビジュアライゼーションを支えたクリエイティブユニット「Hydroid」の谷合 孝志代表と、プロジェクトの成り立ちや思い描く世界を語り合いました。

写真・イラスト/川合穂波(amana)
構成・文/神吉弘邦(NATURE & SCIENCE)

 

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リサーチ、編集、ビジュアライズ

谷合:今日は普段からご一緒している榊さんに、仕事の背景にある考え方について伺いたいです。
 
僕は知らないものをとにかくリサーチして、その後に自分の頭の中で編集し、さらにビジュアルで可視化する作業までをやっています。ビジュアライズするとノンバーバル(非言語)な表現になるので、世界中の人が一瞬で「ああ、未来はこうなるのか」ってワクワクできる。その結果、一緒に何かをやろうという人たちが集まって来てくれるんです。
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榊 良祐(さかき・りょうすけ)
2004年株式会社電通にアートディレクターとして入社後、さまざまな企業の広告キャンペーンを担当。近年の主なプロジェクトには、2019年のSXSWで話題となった「OPEN MEALS」プロジェクト 、2023年開業予定の「北海道ボールパーク」開発プロジェクト、全都民配布の防災ブック『東京防災』プロジェクト、宇宙食市場共創プロジェクト「space food X」などがある。グッドデザイン賞金賞、D&ADほか受賞。



 

谷合:こうしたことを広告業界でやるのが榊さんの特別な立ち位置であり、手がけている一連のプロジェクトの面白いところです。
 
アートディレクターとして15年ぐらい広告をつくってきたなかで、極端に言えば「1秒で人の気を引くビジュアルにするにはどうしたらいいか?」ばかり考えてきました。同じビジュアライズでも「ただの説明図」と「人を惹きつけるビジュアル」は全然違います。
 
ただ、科学的なエビデンスを持ったリサーチャーの話だとか、論文を執筆している人の研究に紐付く高いレベルの情報を描くには、リアリティがないといけない。そういったときに、谷合さんのハイドロイドのチームが、細かい僕のイメージまでちゃんと定着してくれるという安心感があります。
 
谷合:そう言っていただけるのは光栄ですね。
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谷合孝志(たにあい・たかし)
株式会社アマナデジタルイメージング取締役。マシニングセンタ・プログラミングや工業系加工精度1,000分の1mmの世界からカンサイヤマモトのニットデザイナーを経て、島精機のハイパーペイントを使用したことをきっかけにビジュアライゼーションの世界へ。医療・工業等、サイエンスマーケットなど科学分野に特化したビジュアライズのクリエイティブユニット〈Hydroid〉(ハイドロイド)を率いる。〈ミエナイモノヲ可視化する〉をテーマに、企業のコアコンピタンスや伝わりづらい事象を、コミュニュケーションによって理解し、最新のテクノロジーで3DCGと描画力で〈可視化〉している。

 

テクノロジーの発展段階まで見せる

谷合:今日のテーマである「OPEN MEALS」に関連した話題だと、2015年に榊さんから「“食べられる紙”を転送する」という話を聞いたのが最初でしたね。
 
コーンスターチベースの「エディブルペーパー」に、プリンターのインクの代わりに醤油や砂糖水などを入れてプリントするのを、僕がひとりで実験していたんです。「美味しくはないけど、印刷する絵によって味が変わる」という経験から可能性を感じて、やがていろいろな人を巻き込んでいったんですよ。
 
谷合:その翌年が、おでんをゲルでつくる話。料理もできるスタッフが「僕、おでん煮てきます!」なんて言ってくれて(笑)。大根やこんにゃくを3Dスキャンして型に起こし、それをゲル状に固めたものを試食もしたら「うまい!」となった。
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本当にクレイジーでしたね(笑)。「DIGITAL ODEN(デジタルおでん)」は、なるべくシンプルな既存の食をテーマにどれぐらい再現できるのかの検証でした。材料はデータとゲルだけ。おそらく「食データ転送」の検証をやった世界第一号だったのでは。今の技術だと、形のデータはもっと細かい精度で取れるでしょう。さらに食感、香り、味、栄養成分をどう取るか。
 
難しいのは、それを非破壊で取るところ。あの時、谷合さんが「医療用のMRI(核磁気共鳴画像法)で撮影すればいいんじゃないか?」というアイデアを出されたと思うんですが、まさにそういう技術をどうつくっていくのか。九州大学の都甲先生からは、味香り戦略研究所の会長や味覚センサーをつくっている会社の社長も紹介していただき、どんどん巻き込んでいきました。
 
谷合:その後に出てきた「ピクセルフードプリンター」の発想がユニークでした。リアルなものが最初にボンと出てくるわけじゃなく、1個のピクセルを組み合わせて、味覚や食感が変わる。今後、ピクセルの解像度が上がるとともにリアルになっていき、どんどん自然な食になっていくと思うので、最初にピクセルで見せて、これからの進化を感じさせたのがすごいなと。



 
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ゲーム機と同じ4ビットから始まったんです。これも大学の先生や味覚研究所の方とアイデアを出し合った結果、超リアルなものをいきなり転送するのは難しいという理由でやったんですよ。CNCルーターとか、粉末焼結機などもベースの知識があって描いています。押し出し式のプリンターも冷却式といった具合にリアリティがあるから問い合わせが殺到しました。

 

フォーマットをつくるというビジョン

谷合:その後、2018年のSXSWに「SUSHI TELEPORTATION(寿司テレポーテーション)」という具体的な形で出展をした後、「CUBE」というデジタルフォーマットを発表しましたよね。
 
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CUBEのアプリケーション画面

この「CUBE」が重要なんですよ。SUSHI TELEPORTATIONは、寿司をデータ化して宇宙に転送するプロジェクトでしたが、CUBEはそれをどうやって本当に実現するのかという世界標準規格をつくるプロジェクトです。世界中で「食のデータ」をシェアするフォーマットがまだないんですよ。
 
谷合:文書だとPDF、画像ならJPEGといったものですよね。


それの「食」版ってないので、我々がつくろうと。データ×食で基礎フォーマットを日本が国際標準で持てれば、すごく強い。ピクセルフードプリンターのフォーマットをさらにシンプルにしてワンピクセル3センチ角のキューブのレイヤー構造にし、それぞれ「食感」「味」「香り」「弾力」「温度」をプログラミングできるように考えました。レイヤーの数や順番、比率を変え、出力の方法を調整していくと、さまざまな食データが再現可能になるんですね。

口先だけで「世界標準をつくる」とか「3センチ角のレイヤー構造で食感や味のパラメーターを編集する」なんて言っても、全然伝わらない。ワクワクしないし、へぇで終わる。でも、ビジュアルがあることで、やろうとしていることが一瞬で世界中の人に伝わるんです。
 
谷合:牛丼、ハンバーガー、カツ丼……この時はさまざまな食材をキューブにしていました。

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CUBEはレイヤーを重ねることで料理を表現


肉のテクスチャーまで描いているから、正確に言うと分子プリンターレベルが必要になるんですが、そこはわかりやすさを優先しています。
 
谷合:榊さんからキューブ1個1個のラフをいただいてから、どうやってリアリティを持ってつくっていくかを考えました。お吸い物がキューブの中に入っている様子などは、動かさないとリアルな感じがないので動画化したんですね。

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科学的な知見の裏付けを持つ

谷合:そこから「SUSHI SINGURARITY」のビジュアルに繋がっていくわけですね。
 
これは、「人智を凌駕した寿司」です。例えば、細胞培養マグロだったら、培養肉のベンチャーにリサーチしました。
 

榊:日本語版と英語版で、製法や構造、どういうものになるのかをすべて細かく書いています。さまざまな方とお話するなかで、名刺交換をしたら工学博士と書いてあって「ビジュアルを見てよく考えているなと思って、一緒にやりたいと思って来ました」という方がいた。つまり、そのレベルの人も十分、興味を持っていただけたんです。
 
谷合:それぞれ、ちゃんと検証されているわけですよね。

クリエイターがパッと思いついたイメージをそのままビジュアライズしただけだったら、世界中の科学者や企業の方にまで興味を持ってもらえなかったと思うんです。ビジュアライズする時のやり取りでは、谷合さんから「そこまで細かい質問します?」ってぐらいマニアックな質問がいっぱい来るじゃないですか(笑)。
 
谷合:
「構造的にこれはおかしいと思うんですが、どうビジュアルにすればいいでしょう?」 みたいな。
 
そうそう。そういう自分も気付いてなかったことにヒントをもらいながら、さらに掘り下げてリサーチして考えられるのが強みになっています。ハイドロイドの皆さんは、論文のリサーチなどもされますよね。そういう知見がないと、僕のイメージしている「本当にリアルなものとエンターテイメントを融合させたもの」が実現できないんですよ。
 
谷合:うちには構造学的なテンションの設計もしながら、分子微生物学やタンパク質モーターを研究していたスタッフもいるので、「どうやったらそういう構造体ができるだろう」とか、「どのくらいひねっておけばどのくらい戻りそうだ」とか、「積層構造や薄膜の生成にはこんな方法が良いんじゃないか」とか、ビジュアルをつくるときに考えるんですね。

 
僕らは最先端の研究員の方などとも話をすることが多いので、そういったビジュアルがないと話せません。実際に「こういう構造をつくりたい」というビジュアルを見せながら話すと、一気に向こうも目の色が変わる。いわゆる食材の研究者とか、プリンターエンジニアの会社とか、そういうところと話す際には本当に役立つんです。


 

イメージを収束させる橋渡し役が必要

未来って選択の連続だから、たくさんの人が選択するとそっちの未来に行く。一部の科学者だけが選択しても、ニーズがなかったり、市場がなかったりしたら、結局そのマーケットは広がらない。いわゆるコンシューマーをワクワクさせると、徐々に未来がそちらへシフトしてくるんじゃないかと思うんです。
 
谷合:僕らがお付き合いさせていただいている技術者や科学者の方たちに聞いていても、一番そこに悩んでいると思います。同じ会社や研究所で「隣の人が何をやっているのかわからない」という声を聞くので、まずはそこを繋げられるようにと。その先に、科学者の方たちが研究されていることの付加価値をコンシューマーにまで伝えるのが大事です。企業の皆さんもそれをやりたいのだけど、どうやっていいかまだわからないというか。
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OPEN MEALSというのは、アートディレクターがいて、CGのサイエンスディレクターみたいな人がいて、プリンターのエンジニアとか、システムエンジニアとか、大学の分子生物学者とか、シェフとか、同じ日本人だけど全く言語が違う、脳の構造の違う人たちが集まってミーティングするんですね。そうすると、お互いにまるで言葉が通じない。企業が立ち上げるコンソーシアムや新規事業でも同じことが起きているんですよ。
 
そこで、僕のようなアートディレクターがビジュアライズする。精度は高くなくても、毎回ラフを描いて持っていくと、皆んながやりたいイメージが収束されます。一度、ビジュアルによって共通言語を持ってイメージを固めると、それぞれの専門分野の人が議論できる。こうしたビジュアライズコンサルティングみたいなものが、これからの世の中、絶対に必要になってくるはずです。自分がOPEN MEALSのようなプロジェクトを立ち上げ、ファウンダーをやっている意義もここにあると思っています。


 

つくり手が有利になる時代へ

谷合:クライアントワークではなく、独自のコンセプトを世の中に提案するためOPEN MEALSをやっているというところに気概を感じます。
 
何かのプロジェクトから受注する性格の仕事だと、受け手側にイノベーションが起きません。そうではなく、自分から考えたものをビジュアライズして世の中に発信していけば、今までクライアントだった人が「一緒にやりたい」という世の中になっていくと思うんですよね。その結果として、つくり手がますます有利になっていく時代が到来するでしょう。

これまでは、資本を持つところがクリエイターにどんどん発注する世界でしたが、技術力がどこも同じぐらいになると、あとはデザインの勝負だったり、発想やクリエイティブの勝負だったりになる。
 
谷合:発想だったり、組み合わせだったりが重要になるのは同感です。いろいろなところに食指を伸ばして感覚を磨いていると、1つの知見ではできなかったものが、組み合わせることで実現できたりするじゃないですか。それって、俯瞰の視点を持てていないと、なかなかそういうところに行き着けないと思う。
 
世の中に今まで見たことのない価値を発信していく。そのためには、自分に技術がなくてもいいと思うんです。
 
谷合:技術はいろんなところにありますからね。日本の町工場にだってたくさんある。
 
そういう技術を取材して、編集して、ビジュアライズして、発信する。今回たまたま僕は「食」でやっていますけど、他にもさまざまなものが考えられます。ある技術が世の中を変える可能性をわかりやすく伝えられれば、日本だけじゃなく世界中から話が舞い込んでくるはずです。
 

階層や異業種を横断するビジュアル

これから何か新しいものをつくるとき、1社でやるのは難しいです。例えば、クルマはインターネットにも繋がっているし、自動運転になるとカーメーカーだけではなく、他分野の技術とか都市のインフラなどとも結合していかないといけない。国や産業の垣根を越えて、いろんな能力を持った人、言語が違う人たちと一緒に何かをつくるとき、ビジュアルというものが最強の共通言語になるし、航路を示す「羅針盤」にもなるんですよ。
 
谷合:たとえ同じ企業の中でも職種が違うと伝わりにくいこともあるし、数値やデータを訴求したいような場合にも、その効果をわかりやすく伝えるのは難しいですね。でも、社内の技術者や研究者の成果を理解することは、開発モチベーションの向上や商品理解の深化にも繋がり、インナーコミュニケーションを活発にさせ、やがては社内外に影響を与えることができるようになります。

ベンチャーの場合には、これまで他にない技術やサービスに取り組むことがほとんどですから、それらを伝えるのは特に難しい。だから、ファンディングにも苦労されています。そのようなとき、世の中になかった難解な技術を理解し、わかりやすくビジュアライズできれば、伝わるコミュニケーションになっていきますよね。
   
 
いわゆるレイヤーによって思考の言語は違うんですよね。社長、経営企画層、クリエイター、それらのレイヤーで考えていることもまるで違う。そこにゴールイメージが示せると、通りがよくなります。1枚のビジュアルをつくると社内でゴールが明確になるし、世の中に対してはビジョンを示せるので外部のパートナーも得られる。事業計画も書きやすくなるし、仲間も集めやすいから、メリットばかりです。
 
谷合:なぜ、今までそれが行われなかったか。まずやっぱりプロ、ちゃんとビジュアルがつくれるチームがないとできなかったのが1つ。あとは榊さんみたいに、ビジュアルの必要性を一気通貫して伝える意思のある人がいないんですよね。
 
通訳者的なポジションの人、架け橋になる人がいないとなかなか実現しないです。課題は社内にあって、それをビジュアライズしたいけど、自分たちのもやもやしていることだけをイラストレーターにいきなりお願いしてもどうすることもできない。それをディレクション、翻訳してくれる人がいると、明確になるんです。
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谷合:ビジュアライゼーションの考え方を普及させるのに、あと必要なのは組み合わせ方ですよね。榊さんはそれを一人でやれているけれども。方法論で理解さえできれば、企業が付加価値を生み出せそうです。
 
まさに、メソッド化して普及させていく活動を2020年は本格化させていこうと思っています。「ビジョン・オリエンテッド・メソッド」あるいは「クリエイティブディレクション3.0」と呼んでいますが、そこで必要なのは「未来予測士」と「可視化士」という、新しい役割です。
 
世界中の特許で何が取得されているのか、最近はどういう論文が出されているのか、どのスタートアップに投資が集まっているのか、そういう現実をちゃんと数字で追って、世の中のトレンドがどっちに向かっているかを見ている人たち。それが未来予測士です。
 
一方、可視化士というのは、ビジュアライズできる力はもちろん、その前段階のリサーチと編集もできる人。この二人がセットになって企業をコンサルティングする。これは非常にニーズがあると思います。
 
これからの広告業界は、アートディレクターとコピーライターというセットから、未来予測士と可視化士というセットに代えてやっていくのがいいんじゃないかなと思うんですね。


 

人間の幸せと、選択する未来

谷合:OPEN MEALSのSUSHI SINGULARITYは、森美術館の*未来と芸術展に展示されていますよね。先方からオファーがあったということでしたが、すごいことだなと思って。
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それ以外にも、これからイスラエルやベルギー、中国がクリエイティブ産業に力を入れている成都(チェンドゥ)の美術館からもお声がかかっていて、**展示される予定です。
 
英国のRCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)が長年にわたって提唱している「スペキュラティブデザイン」という分野があります。科学的リサーチをして表現する、未来をみんなで思索するデザインなんですが、今の時代だからこそそういうアプローチが必要になってきているんだと思います。
 
アルスエレクトロニカのようなアートカンファレンスでもそういう空気感があって、「いいね!」みたいなものばかりじゃないんですね。半分以上は、ちょっと怖い。OPEN MEALSも100%ハッピーな未来を描いているわけではなく「これどう?」という問いかけになっています。
 
谷合:国によってOPEN MEALSへの反応が違いました?
 
違いましたね。スウェーデンは「ザ・カンファレンス」というテック系カンファレンスだったんですが、そもそも目的が違いました。アメリカや日本では「この新技術はスゴいだろ!一緒にやりたいヤツはいるか?」みたいな感じ。スウェーデンは、そのテクノロジーが本当に必要かどうかを議論しようというカンファレンスなんですね。日本人的にはまだピンとこないかもしれないですが、こういう姿勢はテクノロジーが発展していくスピードを考えると、今後は未来を描くうえで重要になるかと思いました。
 

谷合:日本の中ではそういう議論もなかなか起きないですから。AIもそうじゃないですか。データを与えればどんどん勉強して、リアリティのあるものが瞬時に返ってくる。人間の思考が追いつかないぐらいスピードが早くなっている。コンピューターで思考、判断することが、コンマ何秒でできる時代が来ているんですね。
 
例えば、自動車事故が起きるまさにその瞬間、お互いのクルマがどうぶつかるのが最適解なのか。そういう選択をコンピューターやAIに任せる時代が来る。そんなあまりにも正確すぎる答えに対して、人間は満足するんだろうかと思うんですよ。広告も同じように、一人一人にカスタマイズされた広告というものが日常にインサートされたら、人間ってどういう風に判断するんだろう。正確さイコール正しさじゃなくて、逆に人間が感じる「余白」みたいなものを考える時代がもう一回来るような気がします。
 
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なるほど。すべてをテクノロジーに委ね、正解はわかっているという時代に、どれだけ余白を残せるか。人間というものは自由を求める存在で、自分で判断したい生き物だという研究結果もすでに出てきていますけれどね。あとは、テクノロジーから思い切って離れる。AIを使わないとか、山の中に入ってキャンプへ行くとか。
 
谷合:人として、生物として必要なものが、もう一回見えてくると。今はあまりにも生物離れしているような環境が整い過ぎていますから。
 
そういう 社会の変化はもはや止められないので、技術はシンギュラリティが起きる前提で、どう自分の幸せを守っていくのか。Edward Osborne Wilsonというアメリカの生物学者が、「人類は、古代の身体と、中世の法律と、神の技術を手に入れた」ということを言っています。まさにそうで、技術が神の領域に行き過ぎているのに、法律は中世のままだし、自分の脳や身体は原始人と全く変わってない。
 
谷合:まさに現代を言い表す、わかりやすい表現です。今までのものが本当に過去に置き去りにされて、全然違う世界、感覚を味わうなか、変わらない身体のまま僕らは生きていかなくちゃいけない。そういう時代が目の前に来ているんだと思う。
 
人間って、本能的には原始人のままです。それなのに、技術は地球を破壊し尽くせるものをすでに持っているし、同じ人間をクローン培養していっぱいつくることもできる。現実は想像を超えすぎています。そういうものが可視化されないと、やっぱり議論できないんですよね。僕は2020年代、そんなミッションを勝手に感じています。
 
谷合:相変わらず榊さんはびっくりさせてくれるし、それが僕たちにとっても刺激になっています。プロジェクトの過程で、一貫してビジュアルの大切さを世の中に発信してくれているところが頼もしいです。こうした活動で世界は少しずつ変わっていくと思うし、それが一緒にできたらと思います。
 
ええ。引き続き、よろしくお願いします。





*未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか
豊かさとは何か、人間とは何か、生命とは何か

展示終了

**取材時(2019年11月)