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今だから話したい。シェフとカメラマン、共鳴するクリエイティブの本質。

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シェフ 厚東創 x カメラマン 石川寛 クリエイティブ対談

日本のフランス料理界において最年少シェフとしてミシュラン二つ星を獲得した経歴を持ち、現在は敢えてお店を構えず、食事と空間を提供するという独自のスタイルで活躍している厚東創シェフと、先日ニューヨークで開催されたFood Film Festivalにおいて日本人として初の監督賞を受賞したフォトグラファー兼movieディレクターの石川寛。クリエイターとしてとにかく感覚が合う、という二人が大切にするそれぞれの信念や、コロナ禍中で私たちができること、未来のビジョンについて語り合いました。



   いろいろな業界で自粛が広がっていますが、お二人の現状はいかがですか?

厚東賛否両論あると思いますが、こういう状況でもお客様が食事をしたいとご連絡くださる場合、私一人でコンパクトにできる範囲だと判断すれば、基本的にお断わりすることはないですね。リスクがあることも覚悟したうえで最善の準備をします。それから、お客様のご要望で商品化した焼き菓子をご自宅で楽しんでいただけるように全国に配送したり。基本的には普段と同じように、お客様のご要望をカタチにすることをしています。
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厚東 創 (こうとう・はじめ)
北海道札幌市出身。エコール辻東京  辻フランス・イタリア料理マスターカレッジからフランス校へ。   2005 年に卒業後、アラン・デュカス・グループに就職。 東京・青山の『ブノワ』、フランス・プロヴァンスの『オステルリー・ド・ラベイ・ド・ラ・セル』で修業を積む。 その後、北海道の『ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン』、東京・銀座の『ベージュ アラン・デュカス東京』といった二つ星の名店を経て、2013 年より東京『ドミニク・ブシェ』のシェフとなり、開店 4 カ月でミシュラン二つ星を獲得。2015 年の移転後、エグゼクティブシェフとなる。2017 年に独立し、 『HAJIME KOTO』を設立。http://www.hajimekoto.com/



石川:僕は明日撮影が入ってますよ。会社対会社みたいになっちゃうとなかなかね。でも、僕一人でそこに行くんで。会社はあまり関係ない。スタジオも使わないし、よそへ行ってやるだけだから、僕が撮影監督でこういうふうにやってみたいな感じで指示を出す。コンパクトな方が身動きが取りやすいよね。
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石川 寛 (いしかわ・ひろし)
東京に生まれる。幼少期より絵画を学び、東京造形大学絵画専攻卒業後、写真に転向。以後、フードやコスメティックを中心とした広告写真の世界で活動しながら、広告写真で培ったテクニックと絵画的アート表現を組み合わせた作品を制作する。広告写真家としての実績の他、映像ではシズルディレクターとしてもそのダイナミックな表現力が高い評価を受ける。近年では、パティシエ辻口博啓氏が創作する「LE CHOCOLAT DE H」のビジュアル開発など、自らコンセプトを考えアートディレクションまで行う。Food Film Festival 2019 にて Food Filmmaker of the Year Awardを受賞。 主な広告クライアントに ハーゲンダッツ、マクドナルド、キリン等。食品シズルの撮影を専門とするアート集団 hue 所属


 

しっくりきたのは、大切にしている共通の価値観


   お二人の出会いのきっかけと、それぞれの印象を教えてください

厚東
:1年ほど前でしたよね、村上農園マイクロハーブの撮影でご一緒させていただいたのは。過去にも料理の撮影でいろいろな方とお仕事をさせていただきましたが、石川さんをはじめ、さまざまな役割の方が集まるチームでの撮影は初めての経験でした。石川さんとはインスピレーションが合うというか、すごくやりやすいっていうのが最初の印象です。
 
石川:僕もなんか合うぞって思いましたね。その撮影って、直前までどんな料理が運ばれてくるのか全く分からない状況で。でも、実際に料理が目の前に置かれたとき、想像以上の刺激を受けて、本当に撮りたいと思って臨むことができた。そういう風に思えないと、やっぱり生命感のある写真って撮れないんですよ。
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厚東:あの撮影では大きく2つのお題がありました。まず、16 種類あるハーブ一つひとつの料理を考えること。そして、お皿は使わず料理でアートを表現すること。私は普段からテーマを持って料理をつくっているので、頂いたお題にプラスしてハーブのルーツを追うことを自分なりに決めて創作しました。例えば、紫蘇は中国の伝説でカニを食べすぎた若者が食中毒を起こして死にかけていたとき、紫色の薬草を煎じて飲ませたら回復して蘇ったことに因んで、“紫”と“蘇”の字をとって紫蘇という漢字になった。この話に着想して、紫蘇の料理にはカニを使おうと。カニ1匹をそのまま器に見立てて、カニ足の中に紫蘇の料理を盛ろう、という感じで。頭の中で構築して。



 

あらゆる情報から、何でもそれらしくできてしまう時代に


石川:厚東さんと話していると、料理そのものから人となりが見えてくるんだよね。最近、自分の料理よりもプロデュース的なことに重きを置いている人が多いと思うんですけど、しっかりと芯がある。僕も、カメラマンとして思う写真の終着点は、一枚の絵としての力強さとか、額装した作品として展示するということだけだから。例えばグッズにしたり印刷してとか、そういうことがゴールとして先にあって、それを意識して撮影するというのがどうもダメで。厚東さんとは表現に対してのスケール感みたいなところが似てるなと思って。
 
厚東:石川さんのおっしゃる通り、今、料理人にとって新たな時代が来ていると感じています。ネットやSNSの影響もあって、お店から発信する情報よりも、お客様から入ってくる情報がとても多くなっています。他店の情報も手軽に入手できますよね。そうなると、この料理どこかで見たことあるとか、味の部分もなんとなく想像できてしまう・・・。そういう時代だからこそ、本質というか、どこに焦点を置くのかがとても重要だと思うんです。なぜこの料理を出すのか。意味をすごく込めているつもりです。なんとなくじゃなくて、これじゃなきゃダメというもので、そこに自分らしさも込めて。だからこそ、自分がこれまで経験してきたものは常に意識しています。
 
石川:そうだよね。僕も、ただ綺麗な写真とか全然興味がないわけなんですよ。写真の裏側に何があるのか、どういうテーマの写真なのか、プロとしてそういうメッセージ的な要素がある写真を撮らなきゃ意味ないなと思って。ただ綺麗な写真は、プロじゃなくても撮れるというか。なんかそういう根本のところがしっくりくるんでしょうね。

 

分かり合えるチームと創る、想像を超えるクリエイティブ


   その後、意気投合して別のプロジェクトもスタートしたそうですね

石川:厚東さんの webサイトをリニューアルしたいって話を受けて、動画を載せたらいいと思っていたんだけど、まずはそのイメージを共有するための指針として、静止画を撮影しました。厚東シェフの*キッチンって、厨房、調理器具、盛り付けの場所、ライトもすべて真ん中に集まっていて、厚東さん中心にシェフたちがお互いに向き合って料理している感じが、まるで一枚の宗教画みたいだと思ったのね。それでサイトのイメージをカラバッジョの宗教画っぽくしようと。※馬喰町DDDホテル内の施設。厨房スペースがほとんどで、客席は僅かしかないというのが特徴的な、レストランとは一線を画した設計になっている。

厚東:ほんとにカラバッジョですよね。

石川:長年一緒にいろんな仕事をやってきて、とても信頼しているレタッチャーさんに、「カラバッジョっぽく」って伝えてね。最近は「ハイライトを強く」とかそういう指示じゃなくて、もっと緩やかに表現できる余地を遺すような指示を出しますね。厚東さんは、自分のやり方を人に伝えるときはどうしているの?
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厚東:基本的にエスプリや自分の哲学的なことは言語化し伝えています。それをもとに、感覚的な部分は敢えて言語化せずに、自分で掴んでいってほしいなと思っています。今回の“キッチン撮影”に集まってくれたのは、私と一緒に働いてきたことのある料理人仲間なんですよ。カラバッジョみたいな画を撮るぞと伝えたら、みんなそれぞれに調べてくる。だから、イメージを共有して撮影に臨める。イメージをある程度共有できる人達でないと、撮影もバラバラになってしまうと思うんですよね。石川さん達との撮影では、料理のテーマが自然と共有できて、さらに磨きをかけてもらえたとひしひしと感じました。

石川:それでいうと、ムービーは分業制だから、他のたくさんのスタッフに指示を出す。朝からまっさらなスタジオにその日限りのチームができて、夜中までかけて少しずついろんな要素を撮影して、いいものを仕上げて解散していく。それがすげえ楽しいなと思ってて。スチールの場合、どこまでも一人で突き詰めていけるから、自分に厳しくなって“こうじゃなきゃダメ”みたいになっちゃう。ムービーはある程度相手に委ねちゃうから、違うのもありだなと思えるようになったかな。だから伝え方の工夫としては、仕事をやりやすいように、いかに自分のやりたいことを正確に伝えるかということを心掛けている。石川の現場面白いな、また来たいなと思ってもらえるように。そういうのはすごい考えるようになったね。


 

自分なりのメッセージを込めて、新しい表現方法への挑戦


   お二人とも、以前とは違った活動にシフトされていますが、その経緯は?

厚東:銀座でシェフを務めていたときに、某ブランドさんから料理をつくりに来てほしいという依頼をいただいて、私と当時のチームで出向いていったのが最初です。それから仕事を重ねていく中で口コミで広がって、他のブランドさんからもご依頼をいただけるようになりました。毎回テーマがあるんですよ。例えば、新作のバッグは宇宙をテーマにしているので、料理も宇宙をテーマに作ってくださいとか。それが、当時とても新鮮に感じて。テーマに合わせた料理を考えて、そこに自分なりの意味やメッセージを込めることを意識して、一つひとつ丁寧につくってきました。独立した後、ありがたいことに直接私に頼んでくださるブランドさんが増えていったという感じです。
 
石川:僕は、昔から、打合せやテストとか嫌いで。それはなぜかというと、初めの情熱を持ったまま撮影に臨みたいという強い思いがあって。そういうやり方をル ショコラ ドゥ アッシュさんや、キャビックさん、麺屋武蔵さんとかが、たまたま許してくれて。その商品をつくっている方が情熱を持って表現したいことを、じゃあこうやりましょうと直接企画から携わっていく“情熱と情熱がぶつかり合う“みたいなお仕事が多くなってきましたね。最初にこれでいいんだ、評価されるんだと思ったのは、やっぱりパティシエの辻口博啓さんとのル ショコラ ドゥ アッシュの仕事だけどね。
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石川:新商品の試食をさせてもらって、そのコンセプトを聞いてから企画を考え始める。その後辻口さんには、ビジュアルが仕上がるまで一切会わない。途中のチェックとかも全くなし。それで完成したビジュアルを持っていくと、批評も面白いんだよね。静止画なのに動いてるように見えますとか言ってくれて、そういうの他の人には言えない感想だなと思って。ほんと普通の広告ビジュアル制作とは全く違ってる。ちゃんと段取り決めるのも大事なんだけど、その瞬間にしか生まれない生命感のほうがもっと大事だなと。

厚東:アドリブは確かに大事ですよね。いくら事前に打ち合わせをして準備万端でも、その場のインスピレーションに従って行動したほうがいいこともありますから。私も、村上農園の撮影がまさにそれで。当日のアドリブが良い結果を生み、撮影全てがあれほどスムースに運んだので、より印象に残る仕事になりました。
 

   最近のプロジェクトについて聞かせてください
 
石川:最近は、NYのFood Film Festivalにショートフィルムを出品して賞を頂いたりムービーのプロジェクトが多くなってきてるかな。


石川:厚東さんのムービーもこれから撮っていくんだけど、以前パティシエの辻口さんのドキュメンタリーフィルムのイメージ部分を撮影したので、それを再編集して辻口さんの脳みその中はこうだみたいな作品を制作中だったり。

厚東: 私は昨年オープンした馬喰町の*DDD HOTEL 内の“キッチン”に設計から携わりました。先ほどのカラバッジョ写真の舞台になったキッチンです。私が表現したい空間としての世界観と私自身を、ホテルのオーナーが理解してくださって実現しました。自分が思い描いていた「料理人としての新しい働き方」の一つと、この地区だからこそできる「街との共存共栄」を表現する場所を、素晴らしい方達と共に創らさせていただきました。
*https://dddhotel.jp/ 
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石川:馬喰町にいっぱい面白い人集まってきてるよね。

厚東:そうなんですよね。あのキッチンの話は、特にオープンにしていなかったんですけど、気がつけばいろいろな方が集まってくる場になりましたね。私がディレクションしている料理人集団コレクティブnôl(ノル)がここを拠点に、それぞれの個性を生かしながら活動しています。客席スペースが全体の1/3、厨房スペースが全体の約2/3の空間なんですが、例え主たる事業が変化しても多様な表現ができるので、今回のウイルスのような状況でより一層求められる場所のひとつになるのではないかと思っています。


   今後のビジョンについて聞かせてください

厚東:これまでの価値観や固定概念が変わっていく中で思うことのひとつは、教育部分でのいわゆる学校とレストランの一体化です。今だと学生から社会人の間がほとんどないまま就職しなければならないんですが、育成が間に合わないし、人材不足なども重なってバランスがおかしくなっているレストランが多いんです。調理師学校も同じです。芸能界でもあるような養成所をレストランが単体や共同で併設していくことで育成に関する時間のかけ方、教え方、経営部分にも良い影響が出てくるんじゃないかなと。

石川: なるほどね。

厚東:もうひとつはシンプルに三つ星を目指すこと。思い描いているのは、今までとは違うカタチの三つ星。それを目指すには必要なことがたくさんあると思っていて。まずは自分自身がより力をつけてチームをしっかりと構築していけたらと思っています。

石川: 僕は、自分のことだけど、とにかくいろんな動画用の素材を撮っておくために、常に持ち歩ける機動性のいいカメラが1台か2台欲しいなと。いいものがあったらすぐに街中でも撮れるみたいな。何がどう使えるかわからないから。コロナの影響もあって、チームで集まってとか難しいし一人でパッと撮って編集して完結できるインディーズムービーみたいのをやろうかなと思っている。いろいろある“夢”のなかで、頑張ればなんとかなるかもしれないと思っているのが映画監督になること。ジョナス・メカスという素晴らしい映像作家がいて、プライベート感が強い映画を撮る人で、自分もそういう映画が撮りてえなと。人生経験がめちゃないとだから、まだまだそんなのは撮れないんだけど、事件とかが何も起こらない映画を死ぬまでに撮りたいなと。


 

コロナ自粛中だからこそ考えたこと、実行したこと


厚東:自粛が続いて精神的に疲れている人も多いですよね。なので、楽しいなと思えるものを発信していきたいと強く思います。こういう期間でも、こんなことができると実感が持てるようなこと。私自身の料理なのか、あるいは違うものかもしれませんが、こういう中でも何か”作品”を生みだしたいと思っています。理想論かもしれませんが、少しでもまわりの人達の元気に繋がることができたらいいですね。

石川:僕は自分がやれることを、やる。web会議ももう嫌でさ。今日のこの対談も厚東さん近所だから公園に集合してやろうって。2mあけて、オープンスペースで。やっぱり直接会わないとダメなものってあるじゃない。撮影もそうだけど、全部ダメってことではなくて可能なやり方を見つけてやっていく。

厚東:私も本当に今回の対談、心の底から楽しみにしていて。最初の対談予定日が緊急事態宣言の発令直後でキャンセルになってとても残念だった。ただ、すぐ違う形でやると伺って、今、こうして実現できたことはすごく嬉しいです。こんな状況でもこういった発信ができることを、一日でも早く伝えれたらいいなと。小さな一歩だとしても。
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石川:そうだよね。この状況だからこそっていうのはあるよね。さっき触れた自前のカメラや編集ソフトを使って機動力をもって“感覚的”な動画制作するっていうのも、ずーっと考えてはいたんだけどなかなか腰が重かった。でもコロナがきっかけでようやく実現する感じ。

厚東:私も最近、自宅で“動画編集”をやってみたんです。石川さんとお仕事をしていなかったら、こういった感情は生まれなかったと思うんですけど、基本的にどういう工程で創られていくのかを少しでも勉強したくて。ただお任せするではなくて、これをするために何が必要でとか、こういう映像と映像の繋ぎ合わせにコンマ何秒で黒にフェードかけるだったり、音をいれたりすると全然雰囲気や印象が変わるんだなとか。少しでもわかっていると、今度石川さんとお仕事する時により良い動画作品をつくれるのではないかなと。
※厚東シェフのYoutube channelとインスタグラム@hajime_kotoにて公開中。


石川:早く厚東さんの動画撮りたいね。もうカラバッジョの感じで音楽もイメージできているし、結局、ずっと考えているからね、撮影できてなくてもさ。
 
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執筆協力 : 廣瀬 秀也






 

石川 寛Hiro Ishikawa

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