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物語として残り続けるフォトグラフィー

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『刺繍小説』× Photographer ナオミサーカス

刺繍が登場する小説を集めて、美術家・神尾茉利が針と糸と言葉で綴った『刺繍小説』(扶桑社)。

 
物語の中に刺繍を書いた小説家と、その刺繍を空想した美術家。
二人の想いを読み解いて、photographerナオミサーカスが自分のレンズを通して写す。
 
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シーンの「再現」ではない、物語の視点を独自に切り撮る

小説のなかの刺繍は言葉でできている。色や形が丁寧に描写されている小説もあれば、詳細は語られない小説もある。『刺繍小説』の著者で美術家の神尾茉利は、無数にある小説のなかから刺繍が登場する小説を探し出し、そこにある言葉から想像して刺繍作品を作り上げた。さらに、刺繍が登場しない小説にも〈存在したかもしれない刺繍〉を想い巡らせた。

これらの作品の撮影依頼を受け、photographerナオミサーカスは題材となる小説24編を読了した。
撮影現場でいつでも小説の世界観を思い出せるよう、自分の言葉で書いた読書ノートを作り撮影に挑んだ。

小説の世界観と、神尾茉利が想像した刺繍。その二つが重なったところに存在するイメージを、ナオミサーカスは慎重にレンズを選び、ファインダーをのぞき、被写体との距離を一歩一歩図りながら自らの視点で写していった。

それらの撮影を、ナオミサーカス自身が読書ノートの言葉を拾いながら振り返る。




 

『美しい距離』山崎ナオコーラ(文芸春秋)

「この小説は、大すきな奥さんが癌になってしまって、そこから始まる夫婦の闘病の記録です。この人に出会えてよかった、いっしょになってくれてありがとう、ごめんね。お互いを思う気持ちが、ふわりふわりと重なっていくようなお話。二人が出会った時に奥さんは菜の花模様のワンピースを着ていました。その、かけがえのない思い出のワンピースを「夫の目線」を追うように窓越しに撮影したのです。過ぎ去る「ふたりの時間」と、ゆっくり現実を受け入れる「夫の時間」を写したい。神尾さんが想像した刺繍の菜の花は、思っていたよりシンプルで力強く刺されていた。小説を読んだ時になんとなく想像していたものが、はっきりとここで結ばれるような気がしたのです。」ナオミサーカス
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『苺をつぶしながら』 田辺聖子(講談社)

「好きなことを、好きなときに、好きなだけやって、独身を謳歌するバツイチ35歳の乃里子。ある日、同じ様に生きていた女友達に降りかかるアクシデント。乃里子が彼女のもとへ急いで向かう場面で、乃里子の肩にかかる赤いストールに神尾さんは刺繍を想像しました。自分の選んだ道がどんなものなのか、友人に降りかかるアクシデントをきっかけに少しだけ現実味を帯びて理解できた主人公。避けられない現実を前にした乃里子の不安と覚悟を爽やかな朝の光に込めました。光は少し冷たく無味無臭。小説を読み終えても読者のなかに生き続ける本作の雰囲気を写真からも感じられるように、あえて無色透明な光で写したいと思ったのです。」ナオミサーカス
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『陰魔羅鬼の瑕』 京極夏彦(講談社)

「物語は、主人公の5度目の結婚式から始まります。今までのどの花嫁も新婚初夜、またはその翌朝、何者かに命を奪われてしまうのです。神尾さんは花嫁の白いブラウスに鳥を想像しました。その左胸に軽やかに飛ぶ神尾さんの刺繍を見たときに、もしかしたら、この鳥が花嫁を連れ去ろうとしているのかもしれないと感じました。大きなものに巻き込まれていく登場人物たちのそれぞれの心の様や時間の匂いが感じられるように、夕闇の迫る海岸を背景に撮影しようと試みました。」ナオミサーカス
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【ナオミサーカス × 神尾茉利】


写真表現は、作品に携わる人達の掛け算によって飛躍する。

ここからは、ナオミサーカスが撮影に際して幾度も対話を重ねた著者・神尾茉利を迎え、ナオミサーカスの写真表現についてさらに深く掘り下げる。


神尾 素敵なサイトを作って下さりありがとうございます。ナオミさんが24冊の小説を読んでくれた時も驚きましたが、『刺繍小説』を大切に思ってくれて感謝の気持ちでいっぱいです。「神尾さんと同じ熱量で取り組めそうなフォトグラファーがいるよ」とアートディレクターの柿さん(10inc 柿木原政広さん)に紹介いただいた日が懐かしい。振り返ってみて、『刺繍小説』はナオミさんにとってどんな撮影でしたか?

ナオミ : 私は、写真は一枚一枚が“ひとつの視点”だと思っています。世界をどう見るか、写真家の経験や価値観によって違ってくるから。自分と他人の違いから自分をより深く知れることってありますよね。同じ小説をみんなで読み、どう思ったか、どう感じたかを話し合う。そうして解釈を丁寧になぞりビジュアルに落とし込んでいくことは、「自分を知ること」でもありました。『刺繍小説』の撮影で、それぞれの頭の中にはっきりと存在するけどまだここにはないイメージを、ひとつのビジュアルとして形にしていくことが写真の面白さだと改めて思いました。

神尾 : 撮影まで、編集者やデザイナーと本当に何度も対話を重ねましたよね。私はそのなかでナオミさんが言った「登場人物のパーソナルな面を光や色で写真にしたい」という言葉が印象的でした。この言葉は撮影の後の執筆やデザインの段階でもとても意識しました。このサイトでは3つの小説に触れていますが、ナオミさんが特に思い入れのある小説はどれですか?

ナオミ :『陰摩羅鬼の瑕』(京極夏彦)かな。神尾さんは花嫁のブラウスに鳥の刺繍を想像しましたよね。私はその鳥の刺繍を見た時に「きっと、この鳥がさらってしまうんだ、こんな優しい色で刺された小さな鳥が、花嫁をむこうの世界に連れて行ってしまうんだ」と思いました。花嫁を失う主人公の、どうすることもできない無力感や狂気じみた純粋さ、花嫁の周りに漂う不穏な空気を表現するには、小説のシーンをただ再現するだけでは足りないと感じました。主人公の“怖れ”は日没間際の海に表し、まるで鳥が連れて行ってしまっているかのようにブラウスを浮かせました。
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神尾 殆どの撮影を準備万端で迎えたなか、『陰摩羅鬼の瑕』だけは当日までみんな悩んでたんですよね。ナオミさんたちが海にブラウスを浮かせて撮影し始めたのでとても驚きました! 美しくてやるせない『陰摩羅鬼の瑕』の情緒を感じる一枚で、私も大すきです。

ナオミ : 小説には神尾さんが想像した鳥の刺繍も、私が想像した夕暮れの海も出てきませんよね。小説に書かれていることの、その先、そのまわりを想像して撮ることで、ただのシーンの「再現」ではなく、もう一歩踏み込んだ写真を撮ることができたのだと思います。

神尾 : この海の写真からは、さっき話した「登場人物のパーソナルな面」をすごく感じます。『刺繍小説』は「刺繍をしない人も読める刺繍本を作りたい」という想いからスタートしたのですが、〈刺繍描写のある小説〉に着眼したのは、私自身が描かれていないものを自由に想像できる読書が大すきだからでした。今回、私は刺繍を想像しながら読書をしたけれど、ナオミさんは光を想像しながら読んだのかなと感じました。私がすきな小説のように、『刺繍小説』も誰かの大切な一冊になるとうれしいなと思います。

ナオミ : 私が多く取り組む広告表現の現場は、すべてをコントロールした先のゴールを目指すことが挑戦に満ちていて楽しく、とてもやりがいを感じます。ただ、そうしてみんなで作り上げたビジュアルなのに、キャンペーンが終われば消えてしまう。それがちょっと悲しかったんです。何か一つでもいい。たった一人でもいい。誰かの手に残るもののために写真を撮りたい。そんな思いで『刺繍小説』の撮影に挑みました。

神尾 : ふと手にとって、何度も読み返してもらいたいですよね。改めて、私の刺繍を撮影していただきありがとう。宝物です。

ナオミ : 想像することの楽しさと大切さを、この仕事から改めて教わったように思います。私にとっても宝物です、ありがとうございます!

 


ナオミサーカスの視点で綴られたストーリー

様々な小説に登場する刺繍を実体化した第一章と、小説の中の「あのシーンにはきっとこんな刺繍があったかもしれない」という逆転発想で作られた第二章。そこに登場する小説の感想を、ナオミサーカスならではの視点で綴り「あらすじ」としてブロシュアーに仕上げました。

下記サイトより本書をご購入頂くと、こちらのブロシュアーを特典として同封致します。
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刺繍小説 (扶桑社)
特典:[第二章あらすじ] ブロシュアー + ナオミサーカス オリジナルプリント(A5サイズ)
販売サイト▶︎ https://amanavisual.thebase.in





 

Photographer

ナオミ サーカスNaomi Circus

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