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一瞬で訴えかける、視線を止める。SNS時代に求められる「良いシズル」

最近ではGong cha Japanなどを初めとして飲料の撮影が増えてきているアマナのフォトグラファー大野に、「良い飲料シズルとは」をテーマに話を聞きました。



photographer 大野咲子 Sakiko Ono


料理を作る人や食べる人の気配や息遣いを感じさせる、温かさやリアルさのある撮影を得意としている。

シズル撮影の技術に裏打ちされた高い表現力は、自然なビジュアルでありながら食がもたらす“何か”を印象深く伝え、見る側の心にすっと溶け込む。

日常の空気感が求められる食の撮影では、撮る側も自然な心持ちでいられるよう意識し、

クライアントとのコミュニケーションやリラックスした現場の雰囲気を常に大切にしている。






画面をスクロールする間の一瞬に、訴えかける写真とは


-“良い飲料シズル写真”とは、どのようなものだとお考えですか。


大野「商品の正確性や世界観など、撮影の際に意識していることはいくつかありますが、最も大切にしていることは商品を立たせることです。広告となると商品を売ることが目的なので、良い世界観であっても、商品が背景に埋もれて視線が誘導できないと良いシズル写真ではなくなってしまうと思います。」

-商品が目立つことを意識しているのは、そのような写真が求められているということでしょうか。


大野「求められると感じたのは、インスタグラムに掲載するビジュアル撮影をしたときです。クライアントの投稿の中から、いいね!数が10万を超えているビジュアルを分析しました。


10万いいね!を超えている投稿は、商品が背景に馴染まずに境目がしっかり出ているものや、赤や黄色など強い色を背景にしている写真が多い傾向でした。白い背景でボケ感を活かして空気感がある投稿は、写真としては良いのですが、いいね!数が少ない。スマホを動かしている一瞬で訴えかける力がある写真には、特徴があると思います。それ以来、商品と背景の見せ方をより意識するようになりました。


実際にそのときに撮影した投稿のいいね!数が多く、嬉しかったです。ドリンクに限らず何を撮るにしても、大切にしているポイントです。」




世の中にあふれる写真が多い現代、広告写真に求められること


-スマホを動かす一瞬に訴えかけるビジュアルが求められているというのは、現代らしいエピソードだと思いました。そのような状況に対して、大野さんが感じていることはありますか。


大野「特に最近、SNSを中心に、世の中にあふれる写真の量が昔よりも多いので、1枚の写真を見る時間が短くなっています。じっくり見たら良い写真でも、まず視線を止めることができなければ、広告写真としての役目を果たせないのかなと思います。以前はライフスタイル系の、奥行き感やスタイリングを活かしたイメージカットの仕事が多かったのですが、今はシズル撮影や、ドリンク撮影が増えてきました。


ライフスタイル系のイメージカットなどは、カメラや加工アプリの性能が向上しているし、撮り方のコツなどの情報がたくさん発信されていて、センスの良い方であればわりとすぐに雰囲気の良い写真が撮れるかもしれない。もちろん、プロやアマナのフォトグラファーであればより質の高い写真になるのは間違いないのですが。一方でドリンクのシズル写真は技術が詰まっているので、すぐには真似できない。こういう仕事が今、自分に増えてきているのはフォトグラファーとしての技術や経験が必要とされているんだと感じています。」



大野「空気感のあるイメージ写真は今も好きですし、撮りたいです。そのような写真でも商品や主役を立たせて視線を誘導することはできますが、使用サイズや使用枚数、スタイリングの色味や動きなど、様々なことを気にかける必要があります。一瞬で目がいく、視線を迷わないような画作りがすごく重要。その条件を外すと、良い広告写真にはならないと思います。」




美味しいを表現するのは、ちょっとしたことの積み重ね


-“美味しい”はどのように表現するのでしょうか。


大野「写真から味が想像できる、香りを感じる、温度を感じることが”良いシズル写真”や”美味しそう”に繋がるのではないでしょうか。本当にちょっとした、言語化しにくい、なんとなく香るよねみたいな、食材の皮の浮き具合とか、角度とか、艶とか。そういったものの差で、ビジュアルから伝わる味わいや香りが変わってくる。印象にも残らないようなことが、それを引き出しています。

スタイリストさんやフォトグラファーの感性と言えば簡単なんですけど、この方が美味しそうとか、 熱が入ってる感じがするね、とか。ちょっとしたさじ加減の差の積み重ねが大切だと思います。」


お芋の置く角度、皮の浮き具合など少しの違いで、今にも匂いが立ちそうなビジュアルに。




-美味しいという基準は人それぞれ異なる場合もあると思います。判断に迷うことはありませんか?


大野「結局自分が美味しそうと思うところがジャッジポイントになります。これが美味しそう、これ以上はやりすぎとか、この素材は合成しよう、など基本的に私が決めるので、私が美味しそうと思ったところが基準になる。間違っていたとしても一旦、自分の美味しさの仮説や基準を作らないと、クライアントやADの要望に応え続けることは難しいのではないかと思います。


その基準は、感覚的な部分も、理屈的な部分もあります。

商品が立つことを最優先に、美味しそうという感覚的基準と、商品の正確性・世界観が表現されているといった理屈的な基準、すべてのバランスが取れたと判断したところでシャッターを切ります。」




-今回の”良いシズルとは”というテーマはいかがでしたか。


大野「日常的に撮影しているから、普通だと思ってやっていることが実は良いシズルに繋がっているかもしれないです。人の心を動かす要素はシズルだけではないし、言葉にするとすごく簡単に聞こえてしまって、微妙なニュアンスを伝えきれない。言語化ができないから、みんな良いシズルっていうのかもしれないですね。」



編集者のひとこと

今井夏弥(Associate Producer)


自動販売機で売っている、棒がプラスチックのタイプのアイスクリーム。一度も上手に食べられたことがありません。小学生の頃、プール帰りに友達と一緒に買って、いつも私だけがこぼしていた夏の思い出です。今なら上手に食べられるかな。



次回のシズル特集記事では撮影の裏側についてお伝えします。お楽しみに!


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