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マイナスエネルギーこそ、原動力だった。

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誰でもライティングできる時代に、何をしていくかということ。

車に特化したスーパーフォトリアルなフルCGを制作する、クリエイティブ・ユニット『croobi』。業界の”ありえない”を打ち壊し立ち上げからその『croobi』を牽引してきたCGスーパーバイザー/デジタルアーティスト濵村豊が語るクリエーターとしての自分の成り立ち、原動力、そして未来。



   オンエア中の、HONDA VEZELのTVCFはまさにcroobiでしかできない表現でしたね。

そうですね、新宿やレインボーブリッジなど東京の街を走るVEZELという建て付けはこれまでのシリーズと同じですが、全く同じ場所・同じ動きのシーンを『昼篇』と『夜篇』とで時間帯のみを変えるというCGならではの試みでした。2014年に『croobi』がスタートしてから、こういったひとつひとつの制作事例が少しづつ広がって認知はされつつあると思います。

 


   まずは、CG制作を始めたきっかけを聞かせてください。
 
幼少期は人並みにゲームとかは好きだったと思いますが、どちらかというと外で遊ぶほうが好きでした。小学生のときはよく釣りをしていて、ルアーを自作したりしてました。でも結局は市販のほうが釣れたりして。まあ、普通の子どもでしたね。
 
大学は法学部に入学して、法律的な解釈というか思考方法は理解したんですけど、やりたいことではないなと。それで大学4年生の時にCGがもてはやされつつあった頃、初めてパソコンを買ったんですよ。3DCGの雑誌もいくつか出版されていて、友達もパソコンとソフトを買ったというので、試しにやってみたのが3DCGを始めたきっかけです。


   ソフトは何を使ってましたか?
 
その頃はShadeというソフトをいじってました。初心者用という位置付けだったんですが、今思えばベジェ曲線を使う特殊な作り方で全く初心者にやさしくなかった。当時、デジタルアイドルでTERAI YUKI(テライユキ)とかあって、そういうデータがShadeで制作されていて、自分も作れるんじゃないかと思って試したんですけど、実はすごく難しくて。口の周りに絶対シワができちゃってどうやっても消せないとか。その後、3ds Maxを使ってモデリングしたらずっと簡単だった。これだったらできると、いろいろ作ってゲーム会社にアプローチしたら採用してもえたんです。
 

ひたすら作っては直し、ゲーム会社時代に培ったこと


   ゲーム会社では、どんなことを担当していたのでしょう?

PlayStationのレースゲーム用のタイトルを制作していました。実は、車自体がものすごく好きだったということではなく、たまたまレースゲームの制作チームに採用されたので、そこからずっと車をやるようになったという流れです。根拠のない自信はあって、それなりにできると思っていたんです。でも、入ってみたら、自分がいかに基礎がないかに気づかされました。車のモデリングも全然形が取れないし、やっとモデリングしたら上司から車1台に対してに30カ所くらいの指摘を受けるんですよ。「ここの形が違う」って。悔しい気持ちもありましたけど自分がダメなことがよくわかったので、言われたとおりに直し続ける毎日でした。
 

  ​ それで上達したんですか?

 
1年半ぐらいして「あ、なるほどね」ってわかったタイミングがあったんです。そこからは一気に成長できた気がします。車の全体像やパーツの形状が全て頭の中で再構築できるような感覚で、形の変わり目やパーツ同士のバランスなんかを掘り下げて観ることができるように。そうなると、後に車から背景にスライドしても、観る視点は同じなので作れるようになっていました。

   一つのことを深く掘り下げたから、他にも応用できるようになった?
 

自分の場合はそうですね。基礎がないのにいろいろなことをやっていても、「物を観る視点」が身につかなかったと思います。当時のゲーム機は今ほど性能が高くなく、テクスチャのサイズやポリゴン数を大きくは使えなかったんです。それもあって特徴点を捉えて描かなければ、それらしく見えなかった。例えば、ヘッドライトの複雑な形状をポリゴンで作り出すのは難しいので2Dで仕上げましたが、16色しか再現できない中で写真をそのまま貼ると、光の反射とパーツの形状がごちゃ混ぜになり何がなんだかわからない。16色の範囲で、どこを残してどうを誇張するかを考えて描かないと形が浮かび上がってこないんです。似顔絵で言ったら、デフォルメされているけどすごく似ている。それに近い訓練だったと思います。

結果的に、ひたすら車だけを作り続け、こういった訓練ができていたからこそ「物を観る力」を養えていたのかなと。

 
  ​ ゲーム制作でスタートしたことがよかったんですね。

 
よかったと思います。取材に行って写真を撮るところから、実機のローポリモデルを作り、オープニングムービーのハイポリモデルも制作して、車に関することは一通り全部やりました。それから背景や映像も作るようになりましたが、ゲーム業界ではしっかりとコンセプトを持って制作するんですね。それを、僕は今も意識してやっています。CG制作を始めて20年近くなりましたが、結局、ゲーム会社での経験が今の仕事においても考え方の原点になっています。
 

ワークスゼブラ、考え方・手法の変換


  ​ その後、現在の部署の前身『ワークスゼブラ』へ転職をしてどんな変化が?

カタログ用の画像など高解像度でのハイポリを使っての制作が多く、細部までクオリティの高さが求められるようになりました。ゲームはローポリで作るため特徴点を捉えて全体の雰囲気を描くことを前提に考えていましたが、ワークスゼブラではCGのアプローチの方法という意味で、「物理的な思考」に頭の使い方を変える必要がありました。

反射率や屈折率なんかを考えないと、クオリティの高い画にならない。特にヘッドライトの中で行われている光の反射は、手では描けないし、描けたとしてもそれを動かせないので意味がない。今までの感覚的なやり方だけでは通用しないと悟りました。それまでペンタブを多用していましたが、「これに頼ると求められるクオリティには届かない」と思い、手描きすることをやめました。大きな考え方の転換でしたね。
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試作を重ねたフルCG制作への挑戦

  ​ アマナに合流してからは、何か変わりましたか?

実は、半年から1年ぐらいワークスゼブラ所属のままで企画制作という部署にいました。その頃は「せっかく合流しても何も価値を作れなければクビだな」という気がしてたんです。それで、比較的自由にやれる時間があったのでフルCGで映像を作ろうと思ったんです。当時、車業界では、撮影してきた素材に車を載せる合成系が主流で、フルCGで映像を作ることは現実的じゃなかった。


  ​ 現実的ではないとは?

業界的には、膨大な物量を作る必要がある背景まで含めて制作するのは時間とコスト、またクオリティ的にも非現実的と思われていました。周りからすると、「フルCGで作るなんてバカじゃない」と。だったら、それを実現するしかないんじゃないかと思って。合成系では、他社が遥かに実績を積んでいたので、それを後追いしたところで二番煎じだし、誰もやっていないジャンルの開拓で「フルCGでやろう」と。同僚と3人で車両を走らせた映像を作ったんですよ、フルCGで。
 
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当時のコンセプトとしては、多少レンダリング時間が長くなっても背景、車、カメラシミュレーションなどシーンを構成する全てを一度にレンダリングして、後工程を減らしていくことでした。仮に1つ工程を減らせば 20カットで20工程。1カットあたり3回修正するなら60工程減らせるはずだと。

そうやって浮いた時間を背景のデザインや制作時間にあてれば、少人数でもフルCGができるんじゃないかと考えたんです。例えば、モーションブラーや被写界深度などのカメラシミュレーションはレンダリングが重くなるため、後処理でコンポジットソフトをかけるのが主流だった。だけどそれをやってると嘘くさいし、工程数も減らないし、手間がかかる。コンピュータに任せるところは任せ、僕らはできる限りカメラワークや魅力的なモデルを作ることに集中していい画を作れるやり方を目指したんです。


​    今となっては、その手法がクオリティをここまで上げているんですね。

結果、そういうことになっています。当時はコンピュータに6割まで作らせて、あとの4割を主観でやっていましたが、そうすると人の目と頭で考えた思い込みが原因で、作業する人によって差が出でしまいます。カメラや自然現象の特性を理解して描かないと、「背景だからもっとボケるだろう」とか、「このくらい濃い影のほうがカッコいい」とか、本来そうではないことをやってしまいます。撮影した素材のように現実を切り取ったもので味付けとしてやるのはいいのですが、完成度の低いCGでそれをやると画が破たんします。コンピュータで物理的に正しいことを計算させ、そこに含まれていない要素を後処理で補完することで画のクオリティが上がると思っています。

この手法で作ったフルCG映像の評判がよく、『croobi』という車に特化したユニットを始動することになったんです。

 

croobiの6年、その進化

  ​ この数年でさらに完成度が高くなりましたが、何か変わったタイミングはあったんですか?

技術的には、道路の作り方を変えたのは一つの要素としてあると思います。道路によって挙動が生まれ、道路に説得力があるとリアルに見えます。それ以外にも背景の写真をうまく利用したり、カメラカーやヘリコプターでのカメラワークも、撮影の構造を3Dソフトで再現してみたりしています。

ただ、個人的には、この5年ほどは最初の方法論から技術的には大きくは変わってはいないと。もちろん、ハードウエアの進化はあります。レンダリングするハードウエアがどんどん速くなり、CPUも速くなってより重い計算がかけられるようになった。それから、チームの皆が単純に上手くなったというのもあるんじゃないですか。背景の「作り」として、汚れる場所には必然性があり、植物の生える場所や地形の変化にも理由があるので、メンバーにはそういったことを考えることを徹底してもらいました。今では僕よりも掘り下げて考えてくれるようになっていますね。


  ​ 濵村さん自身は、普段どのようなインプットをしていますか?
 
表現方法という意味でいうと、背景は前から作っていましたが建築そのものに興味を持つようになったのは、2010年頃にスペインでガウディの建築を見てからです。当時は架空の街という設定を作ることが多く、ビルを作るにしても、さりげなくガウディ的な有機的な要素を入れ込むなどして、遊んでみたりしていました。普段の生活から見えてくるものでも、東京の街の中に埋もれているけどパーツ単位でみるとデザイン的に優れているものがあるんです。それに気づくと、そのデザインを背景に埋め込んでみようとか、このコンセプトを取り入れようとか、ある都市をベースにしつつも、アクセント入れて印象に残る画は考えますね。
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コンセプトスケッチ



  ​ ディレクションとしての画作りでは?
 

なるべく車業界ではない映像を見るようにはしています。車を見ちゃうと真似になっちゃうので、あまり見ないですね。フォトリアルの概念として、光なども含めた現実世界を再現するのも一つの要素ですが、それとは別に「この世界観のデザインが優れている」という要素が今後はより重要になると思います。誰でもポチっと押せばライティングできる時代が来たときに、何がよく見え、何が興味を引くのかということを常に意識していたい。リアルなだけで全然魅力のない街や世界は作りたくないですね。
 

フルCGの背景がもたらす強み

  ​ 背景制作のオーダーも増えているそうですね。フルCGで背景を作るなんて信じられないところからスタートした当時とくらべて、その分野の進化もかなりあるのでは?
 
背景制作の依頼は多いですね。昨年ころから特に増えています。
フルCGの背景は最初に作るときは大変ですが、2回目にやるときはすでに素材があるんですね。例えば、ビルだとすると3回目にやるときは、既存のビルの素材が2つある状態でやっていくので、やればやるほど物量があるものが作れる。車の合成は1回限りですけど、背景として物量のモデルを揃えられるのは圧倒的な強みですね。
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  ​ 冒頭に登場した、東京の街をリアルに再現するというリクエストでも同じですか?
 
逆に、やりやすいですね。既存のモデルは使えませんが、東京の街は取材が簡単にできるので。海外の特定の場所だと誰かが撮影に行かなければなりませんが、東京だとちょっと気になったららすぐその場に行って確認できる。実際に取材して撮影した写真を、素材としてそのまま使用することもあります。形を細かくモデリングしてディテールを再現していくのは時間も労力もかかりますが、写真には形状以外にも「汚れ」「間接光」「窓の歪み」「反射」など複雑な変化の情報が含まれているので、そのまま使ったほうが見た目もよかったりします。細かなディテールの追求より、まずは引き画の建物や街全体の雰囲気といった印象が重要で、そこを押さえておくとディテールが甘くてもそれらしく”リアル”に見えてきます。

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   動いていたら一瞬ですからね。
 
これもゲーム会社で言われたことですが、「経験の浅い人はディテールばかりにこだわりがち。上手い人はディテールの前に引いた画がちゃんとできる」って。上手い人ほど寄って見るとラフさはあっても結果的に良い印象を作れている。ディテールの追求は重要ですが、その前に抑えないといけないポイントがあるというか。

クオリティが上がったとすると、時間かけるべきところと、かけなくていいところをしっかりと選別できていることが大きいですよね。ハリウッド映画のように時間と人員とお金を割けるならともかく、少人数で短期間で制作しなければいけないことがほとんどなので、力を入れるポイントを間違えないようにしています。

​   これまでの6年間、ターニングポイントだったプロジェクトは?

最初に自分の画のディレクションをしっかりかたちにできた、という意味ではLEXUS NXです。
 
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   世界観が構築されていて、カメラワークも秀逸でした。

この頃、カメラワークのコツを掴んだんです。ゲーム会社やワークスゼブラでは静止画的なものばっかりやっていたので画は作れたかもしれないけど、実はアニメーションは苦手だった。時間軸で物を考えられなかったんですよ。でも、アニメーションを作っていくうちに、緩急をつけるとか、空撮したときのカメラの動きはどうなるかとか、乗り物ならどういう視点で動くかとか、そこも理屈で考えるようになったんです。揺れ方やブレなども、地面の振動を拾ったものや、カメラマンがカメラを動かして少し戻して揺れるなど種類があって、そこを最初から意識して進めると一発目のプレビズアニメーションからしっかり作れる。本当にいいアニメーションは質感のない段階から、説得力があるんですよね。それを目指していると、自然に上手くなるというか、プレビズだからと言って最初に適当にやってるとそこから上達しないしクオリティも上がらないですね。


   やっぱり頭の中に、カメラもあるし、すべてがあるんでしょうね。
 
いい悪いは別として、最初にイメージを持って制作には当たっています。途中でもっといいことが浮かんだらどんどん変えていきますが、最初にイメージが無いと迷うだけ。これも、結局ずっと車をやってきたからできるのかもしれません。

「デザイン的にも振り切った世界観」ということでいうと、FUSOのプロジェクトではムービーディレクターとして参加したので細部にわたってそういったディレクションができたと思います。

 

これからのcroobiと自分


   フルCGでここまできた。次のフェーズは?
 
コンセプトを作っていければと思っています。フルCG全体はチーム体制でやらざるを得ないけれど、コンセプトを作るだけなら一人でできるんじゃないかという気がしていて、それも悪くないなと。
次の10年でいうと、とにかく新しいことをやらなければと思います。車業界は自動運転とかホバーカーなど新しいジャンルが出ているので、恐らくCMの打ち方も変わるだろうから。この数年を見ても、少し前まで架空の世界を作るのが流行っていましたけど、今はCGを利用してフォトリアルな街で車を走らせる路線に変わってきています。業界の変化に合わせて動くより、こちらから動いて主導権をとる流れを作りたいと思っています。
 
   でも車というジャンルは変わらず?
 
それは一つの強みとして持ちたいと思いますが、長くやって、専門家になるほど視野が狭くなるじゃないですか。そうなりすぎて新しいものを排除するようにはなりたくない。なんだかんだ言って、本業は車ですが、違うこともやっておくと本業に生きるんじゃないかな。

 

4K/8Kへのレンダリングの限界、 5G時代へどう向かっていくか


   歯がゆい時期ですよね、そこも見据えて濵村さんも進化していくのではないですか?
 
しばらく基礎研究をしたいですね。結局、フルCGができるという目処が立ったのも、アマナに来て一年ぐらい基礎研究をする時間があったから。それがなければ、できなかったわけだから、基礎研究の時間を持つことは大事だと思います。ビジョンを持って根本的に変える考え方をする人がいてもいいんじゃないですかね。もうすぐキャリア20年ですけど、僕の原動力っておそらく「今に見ていろよ」みたなマイナスエネルギーだったんじゃないかなと。そういったチャレンジ精神はずっと持っていたい。
 
一番おもしろそうなのはリアルタイムの技術。今はクオリティ的にまだ足りてないと言われていますが、今後それですべて完結できるようになれば、一つの革新なんですよ。 

作り方をがらっと変えて新しいものを作る。それをやるには時間も必要だし、投資もいるけど、すごくやりがいがありますしチャレンジしたいと思っています。



文:さとうともこ
取材協力 : 鈴木健哉

  • 濵村 豊Yutaka Hamamura

濵村 豊Yutaka Hamamura